捌ノ参 幸せとは ページ35
【そしてまたひとつ】
痛みが腹部を貫いた。体の肉に、少しの隙間から空気が通る感覚がして吐き気がする。否、それ以上に鈍い痛みに歯を食い縛る。
「死ぬ…!!死んでしまうぞ、杏寿郎、鬼になれ!!鬼になると言え!!」
鬼になるつもりなど、宣言したとおり毛等もない。杏寿郎が失った代償を裏切るような行為は決してしない。もう決めたことだ。
「お前は選ばれし強き者なのだ!!!」
走馬灯が見えた。母が見えた。幼い千寿郎が見えた。そしてまだ現実が見えてなかった自分が、涙を流さずに言葉を噛み締めていた。
力強く、刀を握る。血管が浮かびあがった。刀を振り上げる。そうだ、自分は。煉獄瑠火の息子である。負けるわけにはいかない。
「オオオオオオオ!!!」
雄叫びを喉から絞り出す。それだけでも体が悲鳴を上げる。拳が目の前に迫ってくるが、今死ぬわけにはいかないのだ。
軋む腕をギリギリで止めて、右腕に力を籠めた。逃がさない、逃がすわけにはいかない。絶対に放さん。
“お前の首を斬り落とすまでは!!!”
「退けえええ」
「あああああ!!!」
「伊之助動けーっ!!!煉獄さんのために動けーっ!!!」
「【獣の呼吸 壱ノ牙 穿ち抜き】…」
ダメだ、逃げられる。足に力が入るような音を感じる。途端にズンッと地面が沈んで力が抜けた。破裂音と共に刀が軽くなる。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」
刀が突き刺さった体で一瞬睨んだ鬼は、日光がどんどん差してくるとまた走り出す。それでも少年は叫んだ。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!!生身の人間がだ!!!傷だって簡単には塞がらない!!
失った手足が戻ることもない!!逃げるな、馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!
お前なんかより煉獄さんの方がずっと強いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!
Aさんだって覚悟の上だったんだ!!守る方法がこれしかなかったんだ!!煉獄さんは、Aさんは!!!
戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!
うあああああ、ああああ!!あああああ!!あああ、わあああ、あああ、うっ、ううっ」
その言葉で何もかも、報われた。Aを手にかけてしまったという罪悪感も消え、あぁ、勝利したんだと。そう思えた。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時