弐ノ壱 当主の考え ページ13
【初めて会ったのは】
客がいらした。丁度、杏寿郎は任務だ。千寿郎は買い出しに行っている。その方は杏寿郎に用があるのだろうと、そう思った。
『杏寿郎さんなら今、出てますけど』
「分かってる。私は彼の上役だよ。彼の仕事は全て把握している」
酷い火傷のような怪我を負っていらして、瞳ももう見えていないのか、似ていらっしゃる娘二人に支えられて訪問された。
多分、彼が鬼殺隊当主……、産屋敷輝哉なのだろう。父の言っていた通り、この方の声音の律動は安らぎを感じさせる。
『兎にも角にも、中へ』
彼らは頷くと屋敷の中に踏み入れる。少し哀愁が混じるような瞳に、たじろいだが客に対しては失礼すぎるだろう。
ちょうど煎れたお茶を三人分。差し出せば、嬉しそうに産屋敷は飲んでくれた。娘も飲まないのは失礼だと思ったのだろう。
父を真似るように失礼します、と断ってからお茶を飲み干してくれた。ふぅ、と息をつく辺りが何とも年相応で愛らしい。
「宗近、そっくりだね」
父にそっくりだと仰る。父はよく微笑む人間で、豪快に笑うことはなく、どちらかというと翁のような爺染みた雰囲気の人だった。
雪柱だったらしい。父には似ても似つかないだろうに、世辞なのか。物腰も母に似てしまったというのに。父の要素などない。
弟だって母に似ていて、漆黒。雪とはかけ離れた容姿だった。つり目だし、はねた癖毛の元気万欄な少年。それすらも愛しかったが。
『……何処が、似ていると仰るのです?』
「藤の花が似合うところ……かな」
『え?』
確かに、生前の父は屋敷に藤の花を植えていた。魔除けだとも言っていたけど、父は藤の花が大好きだったと思う。
「君の儚さはそれに匹敵する」
『でも、父は朗らかで穏やかな人でした』
「そうだね」
『私は無表情です、父のように笑えません』
「そこは、あやめに似たのかな?」
母の名が彼の唇から紡がれた。当時のことはよく覚えていない。笑わない母だったけれど、優しかったことぐらいだ。
病弱で、縁を産んで間もなく亡くなった。父からも言われなかったし、聞くことを拒んだ。記憶のままの母が良かったのだ。
「あやめも、昔は鬼殺隊に勤めていたんだ」
『……知らなかった』
「藤の呼吸っていう、鬼に最も有利な呼吸を扱う剣士でね。常に無表情だったよ。笑うのは得意じゃないって」
懐かしむように、くすりと笑った産屋敷はAをしっかりとまっすぐ見据えている。あぁ、この人は優しいのだろう。そう、ひしひしと感じた。
1383人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時