◇あいことば５ ページ41
・
「それが、俺の秘密」
「なんか、聞いてごめん」
「いいよ別に。減るもんじゃないし」
・
筆を止めて、イスにしょんぼりしたように座る目黒に
思わす笑ってしまった。
・
「…その人、いまどうしてるの？」
「その、再会した時に付き合ってた人と結婚して子供もいるって聞いた」
「…マジで」
「すっげー顔の濃いやつと結婚したのね
そしたら劇画みたいな顔した赤ちゃん出てきたって知り合いから聞いてさ(笑)」
「劇画って(笑)」
・
目黒がまた、筆を取る
・
「なんか、私そういうことよく分からないけど
いい思い出だね」
「….。」
「そこまでして、お互いを守りたいって思えることなんてさ
人生で一度あるかないかだと思うよ。よく分からないけど」
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ボロボロになった歌集を捲って、彼女はお目当ての歌を書き出す
・
「….写真とかないの？その人の」
「もうないよ。いつまでも持ってたら気持ち悪いだろ」
「えー、見たかったなー」
・
卒業式が終わったらしく、体育館の方が突然うるさくなる
・
「あー、教室戻ろうかなー」
「戻りな」
「ん」
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透明な空の色
それが、あの日に良く似ていた。
・
「はい。使えない副顧問に元部長からのプレゼント」
「一言も二言も多いわ」
・
俺に渡してきた半紙
使っていた筆や硯を全部片付けて、教室を出る寸前に彼女は言う
・
「その人きっと、幸せだったよ。ニノちゃんにそこまで大切に想われて」
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黒い髪が、揺れて
白い頬を隠す
その光景が、妙に懐かしくて心臓を抉られた。
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全てを隠すように、彼女がくれた半紙に目をやる
達筆すぎる行書は読み難い
・
「…限りなく…結びおきつる草枕…いつこのたびを…思ひ忘れむ？」
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どういう意味？と聞こうとしても
もう、目黒は教室にいない。
・
ふと目を落としたら、彼女が片付けずにそのまま置いていった歌集が目に入って
開きっぱなしのページを覗き込んだら
その歌の、現代語訳があった。
・
いつまでもと深い契りを結んで帰ってきたこの旅のことを
絶対に忘れることはありません。
・
涙が、春の寂しい空に溶けた。
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［おわり］
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moma(プロフ) - 最後思わず泣いてしまいました。とても素敵なお話ですね。お疲れ様でした。 (2019年10月6日 12時) (
レス) id: 48200bde74 (このIDを非表示/違反報告)
おおみやえすけー - なんというか、プロです！想定外の終わり方！感動しました。いいお話でした！ (2018年5月27日 13時) (レス) id: 3c6cfab666 (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - はじめまして。今更ながら作品を読ませて頂きました。もう胸が苦しくて切なくて…。特に二宮さんのお返事には何度も何度も号泣してしまいました。この作品はずっと心に残っていくと思います。本当に好きな作品です。ありがとうございました。 (2017年12月31日 5時) (レス) id: 1b3c0cf73c (このIDを非表示/違反報告)
雅(プロフ) - とても面白かったです！ (2017年9月19日 2時) (レス) id: 40edc2cacc (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - はじめまして。この作品を見つけてシリーズの最初の作品を読んだら時間なんて忘れてモヤモヤしながら夢中で読ませて頂きました。ほんとに鳥肌が立つくらい良い作品でした、読み終わった時の感情は言葉に出来ないですけどこの作品に出逢えてよかったです(*´ω｀*) (2017年6月23日 10時) (レス) id: d8eea5bcd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：.
| 作成日時：2017年3月4日 22時
