◇あいことば３ ページ39
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「待って、なんで俺がこれを梨田に渡さなきゃいけないの？」
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「つべこべ言わずに渡してあげなよ。翔くん」
「なにこの、菫もグルな感じ」
「翔ちゃんお願い。渡して？」
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彼女と連絡を取らなくなって、一年以上が経った。
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それでも元気に生きてるって聞いてたから、案外あいつも強いなって。
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「え、どういうことなの？」
「….翔くん、察してよ。相変わらず頭堅いんだね」
「え….まさか」
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そのまさかだよって、初めて翔ちゃんに告げたのは
もう、三年生は自宅研修期間に入っている頃だった。
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「….全く気付かなかった。嘘だろ？」
「残念だけど…」
「はー、梨田恐ろしい子だな」
「元気にしてる？あいつ」
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勉強を何故か頑張り始めて、最後まで否定し続けたのに
自分の意志で保育の短大に行くことが決まったこと。浮いた話がないこと。いい子に学校に来ていること
全部、その時に知った。
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「ってことでさ、これ渡しといてよ」
「….お前が自分で渡せよ」
「ここで俺が行ったら、あいつはダメになっちゃうから」
「….。」
「1人で大丈夫になったなら、そのまま進ませた方がいいでしょ？」
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翔ちゃんは、煮え切らない顔をして紙袋を受け取ってくれた。
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「卒業式に渡せばいい？」
「そうして。お願い」
・
そのまま、俺は卒業式すらいく予定がなかったのに
「会いたがってる生徒が何人もいるから、顔出しませんか」って
その時の校長から電話が来たのは
卒業式の一週間前だった。
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半年も学校にいなかったのに、会いたがってるって何だよって思いながらも
そこに行ってしまったのが、間違いだった。
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式は午後からだとてっきり勘違いしていて、学校についた頃にはもう終わっていた。
・
『あれ？！ニノちゃんじゃん！元気？生きてたの？』
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校門の前で戯れていた生徒に絡まれて、適当に笑って写真を撮って
梨田なんて見つけられそうもないし、とっくに帰ってると思ったから
せめての思い出にと、初めて彼女と話した音楽室の裏側に向かった。
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今でもよく、覚えている
汚れの目立つ白い壁にもたれて、黒い髪を風に泳がせて
その間から見えた、白い頬と赤いくちびる
・
綺麗だなと思った、あの刹那。
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moma(プロフ) - 最後思わず泣いてしまいました。とても素敵なお話ですね。お疲れ様でした。 (2019年10月6日 12時) (
レス) id: 48200bde74 (このIDを非表示/違反報告)
おおみやえすけー - なんというか、プロです！想定外の終わり方！感動しました。いいお話でした！ (2018年5月27日 13時) (レス) id: 3c6cfab666 (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - はじめまして。今更ながら作品を読ませて頂きました。もう胸が苦しくて切なくて…。特に二宮さんのお返事には何度も何度も号泣してしまいました。この作品はずっと心に残っていくと思います。本当に好きな作品です。ありがとうございました。 (2017年12月31日 5時) (レス) id: 1b3c0cf73c (このIDを非表示/違反報告)
雅(プロフ) - とても面白かったです！ (2017年9月19日 2時) (レス) id: 40edc2cacc (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - はじめまして。この作品を見つけてシリーズの最初の作品を読んだら時間なんて忘れてモヤモヤしながら夢中で読ませて頂きました。ほんとに鳥肌が立つくらい良い作品でした、読み終わった時の感情は言葉に出来ないですけどこの作品に出逢えてよかったです(*´ω｀*) (2017年6月23日 10時) (レス) id: d8eea5bcd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：.
| 作成日時：2017年3月4日 22時
