黒に染まって白に染まって (ページ9)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:26,891 hit

白と黒。9 ページ9

「おはよう、A」

　「あ、おはよう」

　部屋に戻ると、髭切が朝仕度をしていた。

　膝丸はまだ寝てる。

　「弟は朝弱いからねえ、ふふっ、可愛いよね」

　と、髭切が膝丸の頭を撫でる。

　なんだかんだ本当に仲良しだよね。

　「ねえ、髭切は膝丸の名前をなんで忘れているの？」

　「さあ、なんでだろう？」

　そう髭切は悪戯に微笑む。

　私今思いっきり「膝丸」って言ったのになあ。はぐらかされた気分だ。

　「その、私もいろいろなことを忘れてしまったから、髭切は思いだそうとは思わないのか、気になって」

　私がそう言うと、髭切は徐に私の方へよってきた。

　……少し近すぎないかな？吐息がかかるくらいの距離で彼はこう言う。

　「別に、無理に思い出そうとしなくてもいいよ。

僕も弟も、ずっとAのそばにいるから」

　優しくそう伝えられて、さっきからの不安がすっと消えた、気がした。

　「私、これからどうすればいいのかな」

　「うーん、Aがしたいことなら、なんでもさせてあげるよ？」

　そう言われると、余計に悩む……。

　「じゃあ、外に」

　「ごめん、それは出来ない」

　食いぎみに答えられ、思わずたじろぐ。

　「それは……なんで？」

　「……外は、危険だからね」

　私が特殊な身であることはなんとなくわかっている。

　そんなに、危険な状況で、私は生きていたのか……。

　少し、怖くなった。