標的72 ホームラン−１ ページ35
麗羅視点
野球場は、沢山の観客によって埋め尽くされていた。
学校で見た事のある顔や選手の父兄だと思われる大人、色々な人達がいる。
無事に退院出来たあたしも、ツナ君達と一緒に山本君のチームが優勝する処を見に来たのである。
今は山本君のチームが守備に回っているらしい。
『らしい』と云うのは、何と無く見ているだけで、正直ルールがよく分からないからだ。
麦茶を飲みながら眺めていると、隣から軽く肩を叩かれた。
振り向けば、眼鏡を掛けて長めの銀髪を後ろで結んでいる獄寺君と目が合う。
珍しいその姿は、獄寺君が勉強する時の装備だ。
｢野球のルールって分かりますか？｣
｢うーん。実はよく分からないんだよね。
獄寺君は？｣
｢好きじゃ無いっすけど、一応知ってますよ。
教えましょうか｣
獄寺君の手には、『一番よくわかる野球ルールブック』と表紙に書かれた本が握られている。
疑問形の割には準備が整い過ぎてはいないだろうか。
獄寺君の理論指導は容量の悪いあたしには理解出来ない事が時々あるが、野球のルールを説明するだけなので其処まで小難しくはならないと思われる。
此処は素直に教えてもらおう。
「ありがとー」あたしが言うと、獄寺君は張り切って教えてくれた。
本を見せてくれたり、今の試合に沿って教えてくれたり、とても分かり易かった。
「今のはですね――」獄寺君がグラウンドを指差した時、只ならぬ気配を感じて後ろを見た。
通りすがりの男の子は足を止め、小さな声で話し掛けて来た。
｢犬から聞きましたよ。
君、黒曜ランドに来ていたらしいですね｣
｢何の事ですか？
あたしには さっぱり｣
｢まあ良いでしょう。
何れまた君を攫いに来ますよ、麗羅｣
｢何かと縁があるみたいですからねー、六道骸さんとは｣
「クフフ」と怪しい笑みを浮かべる男の子の右目には、『六』と云う漢字が刻まれていた。
母親から「みー君！」と呼ばれた男の子は、無邪気で無垢な男の子本人に戻って駆けて行った。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
