標的69 エンジェル・トランペット−３ ページ30
山本視点
しかし、棍が振り下ろされる事は無かった。
麗羅の身体がぐらりと傾いて、その場にへたり込む。
マントで隠れている所はよく見えないが、足や手がぴくぴく痙攣を起こしている。
右手に巻かれた包帯は紅に染まり、其処から滴が滴り落ちて本来の役目を果たしていない。
もう麗羅の身体はぼろぼろだ。
それなのに、麗羅は棍を地面に突いて立ち上がろうとする。
麗羅が棍を握る程、持ち手に紅の液体が広がる。
｢もう止めろって！
このままじゃ、身体が壊れちまう！｣
｢何を心配してるの？
僕の操り人形だよ、それ。
ゾンビだよ、それ｣
｢ゾンビなんかじゃねぇ！｣
立ち上がろうとする麗羅を抱き締めて、俺は絶呼した。
腕の中で暴れる麗羅に「ごめんな」と一言謝り、鳩尾に膝蹴りをする。
気絶して大人しくなった麗羅を寝かせ、ナイトを睨めつけた。
何が楽しいのか、怒っていたナイトはまた笑顔になっている。
俺は八つ当たりをするように、柄を強く握り締めた。
｢あーあ、同士討ちで苦しむ山本武が見たかったのに。
ナハトの毒のせいで台無しだね。
もう使い物にならない｣
｢お前さっき、『馬鹿にしてるのか』つったよな。
そりゃ此方の台詞だぜ。
お前ら双子こそ、俺らの事馬鹿にしてんじゃーねーか。
人を何だと思ってんだ｣
｢『お前ら双子』だって？
ナハトと一緒にすんな！｣
｢一緒だろ。お前ら絶対、許さないかんな｣
人の神経を麻痺させて痛めつけるのも、催眠を掛けて味方同士を戦わせるのも、卑怯な戦い方だ。
正々堂々、正面から戦わないのは、相手選手を馬鹿にしているのと同じ。
刃をナイトに向けて走り出す。
炎を灯した手から伸びた幹を真っ二つに割って突き進み、刃の向きを変えて振り下ろした。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
