標的68 赤のチョーカーをした猫 ページ27
麗羅視点
ボクは指で山本の頬に触れた。
何時も絶やさず笑みを浮かべていた顔は、今は何の感情も見せてくれない。
ビアンキが樹に凭れさせた身体は、色んな箇所に打撲が出来ていて痛々しい。
しかし、奇跡的に腕だけは怪我をしていない。
山本にとって何よりも大事な野球に支障は無さそうなのが、不幸中の幸いか。
山本は此処まで来る間、一番戦っていた。
城島を倒し、負けてしまったがランチアの相手をしていた。
戦線離脱となってしまったが、山本は十分頑張った。
それに対してボクはどうだ。
ボクは此処まで来る間、襲撃事件が起きている時、一体何をして来ただろう。
柿本から獄寺を守れなかったし、城島の罠から山本を助けられなかった。
ナハトには逃げられた挙句、身体は痺れて主君達には心配と迷惑を掛けてしまった。
そうして今、気絶した山本と一緒に戦いが終わるのを唯待っている。
一連の事件の中で、ボクは何一つ役に立っていない。
(ボクは一体、何の為に此処に来たんだ)
悔しさに拳を握ろうとするも、力が入らない手は少し指を動かすだけで精一杯。
拳を握る事も出来ないなんて、自分が情けなくなって仕方が無い。
「にゃあ」猫の声が聞こえ、慌てて辺りを見回した。
がさがさ、と音のした茂みから出て来たのは、ナハトでは無く黒猫だった。
ナハトのせいで猫の声に敏感になっていたようだ。
赤の首輪をしているから、誰かに飼われている猫かもしれない。
暫く見つめていたが、単に通り過ぎて行っただけの黒猫から視線を外す。
「うう、」山本が身じろぎをして、ボクは山本の顔を覗き込んだ。
｢大丈夫？ 山本｣
目を覚ました山本は、ボクの姿を確認すると小さく微笑した。
だが、次には真剣で焦った表情をしながら「危ない！」と声を荒立てる。
後ろを振り向く暇も無く、ボクの脇腹を何かが貫通した。
ゆっくりと視線を下ろすと、下向きに咲くラッパの形をした白い花に、紅くべっとりした液体が付着していた。
これでもかと目を見開いて顔を真っ青にした山本を見遣ったのを最後に、ボクの意識は途切れた。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
