標的66 大切なもの−２ ページ22
麗羅視点
自分の身に何が起こったのか分からないまま、倒れ、転がり、兎も角攻撃を避ける。
その間にも痺れは酷くなって、身体がぴくぴくと勝手に動く。
僅かな飛沫を浴びただけで手も足も出なくなった事が悔しい。
壁に押し付けられるが、背中に強い衝撃は受けなかった。
いや、受けてはいるのだろうが、それを感じ取れない。
このままでは負けてしまう。
一発大逆転出来る何かをしなければいけなかったが、とてもじゃ無いが今の身体では攻撃なんて不可能だ。
――煙草とライターだよー。
獄寺君が喫煙しないように。
とある一つの案を思い付いた。
ボクは胸ポケットに仕舞った二つの物を取り出す。
下は動きやすいハーフパンツに履き替えたが、上は制服でも問題無いからと洗濯をさぼろうとしたのが功を奏した。
怪我、火傷、リスクは大きいが真ともに戦っていては負けるのは必須。
でも、此処で山本や皆の手を煩わせる訳には行かない。
山本とビアンキはさっき戦ったばかり。
獄寺は三又矛の蚊で一時的に怪我の症状を軽くしているだけだから、何時副作用が出るか分からない。
リボーンは『掟』によって手を出す事を制限されていて死ぬ気弾しか撃てず、その死ぬ気弾は今残り一つしか無いから主君も手が出せない。
何より、ナハトはイレギュラーな存在。
『物語』によると最も出番の少ないボクが倒すしか無いのだ。
何が何でも、絶対にナハトを倒す。
がっ。後ろで物音がして視線を向けると、山本のバットを日本刀に変えた山本が立っていた。
きっと見ていられなくなって参戦しようとしてくれたのだ。
｢山本、ちょっと離れてて｣
「お願い」心配してくれる山本に懇願した。
山本達に、余計な手間は掛けさせられない。
物語の修正はボクがやらなければ。
全神経を注いで手を伸ばし、大樹の隙間から指を出す。
山本は「頑張れ」と言ってそれを握ってくれた。
指が触れた瞬間、じんとした小さな痛みを感じて、其処から力と勇気を分けてもらったような気がした。
ボクは震える手で煙草をケースから出し、ライターの火を付けて遠くに投げる。
倒せたと思ったのも束の間、対峙していたナハトの気配も悲鳴も消えた。
逃げられたと分かった時にはドームの壁まで燃えていて、追い掛ける処か――身体が痺れているから元々不可能だが――自分の退路が絶たれてしまった。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
