金華の香に当てられて【kym短編集】 (ページ41)

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《＿…ここで、残念なお知らせです。今日をもって地球は滅亡します。皆様、非常に残念ではありますが、最期のひとときをお楽しみください。繰り返します。今日をもって…》

木曜の昼下がり、よく見知った真面目なキャスターが突如読み上げた言葉で、今日が人生の最終日であることを知った。

俺は意外にも冷静に受け止めることが出来て、今日で最期なら何をするべきか考えた。

美味しいものを食べる？

全財産を使う？

ファンに感謝を伝える？

いっそのこと路上ライブでもやるか？

そこまで考えて、ふと思った。

どうせ今日で終わりなら、ずっと好きだった彼に想いを伝えるチャンスなのでは。

これまでグループの活動に支障が出るといけないと思って抑えてきたこの気持ちだが、明日が無いなら我慢する必要も無い。

思い立ったら即行動、俺は何も持たず自宅を飛び出した。

外の世界は大騒ぎだった。

皆これまで抑えてきた気持ちを爆発させるかのように思い思いの行動をとっていて。

道路の逆走、食い逃げ、道端で催している人達、この街は無法地帯と化していた。

でも、誰も怒らない。

だって今日で終わりなんだから。

最期くらい好きなことをしたいよな、わかるよ。

でもだからってさ…

"きゃー！北斗くんいた！"

"北斗くん抱いてー！"

"逃げないでよー！"

最期の足掻きに俺を巻き込まないでくれ。

俺にだってやりたいことがあるんだ。

変装くらいして来るべきだったと悔やみながら、街だった場所を必死に駆け抜ける。

幸いにも俺は足が早かったから何とかまくことが出来た。

…そう言えば彼は今どこにいるんだろう。

何も考えず家を飛び出してしまったことを後悔する。

取り敢えず彼の家に向かうもそこに彼は居なくて、ご両親曰く「不格好な走りでどこかへ行ってしまった」だそうだ。

おふたりには今迄の感謝の意を伝え、別れた。

それにしても彼は一体何処へ向かったんだ。

家を出たのは1時間ほど前とのことだから、俺と同じくニュースを観て直ぐに飛び出したのだろう。

彼の体力や足の速さを考えるとまだそう遠くへは行っていないはず。

絶対に見つけてみせる。

そう自分を奮い立たせ、彼を求めて足を動かした。