百四十歩目。 ページ41
続き。
―NOside―
「お嬢さんの"個性"は何だったかな」
「...娘は"無個性"です。それが何か関係ありますか？」
「いや、ないよ。ふと気になったんだ。【完治】が効かない人は初めてでね。君の【遮断】が原因かもしれないね。"個性"も遮ってしまう強力な"個性"だからね。【完治】は細胞や血液全てに作用する、もしかしたら君の"個性因子"がそれを遮ってしまったのかもしれない」
「つまり、俺の"個性"のせいで貴方の【完治】が効かずに病が治せない、と...？」
「そうなる。すまないね、私としても力になりたかったんだが...」
絶望感を滲ませた表情をする父親をよそに、掛かって来た電話に出ながら男は退室した。
少女は茫然とどこかを見る父親を見て、病は治せなかったことを悟った。
大きな瞳が揺れて、徐々に涙が溢れてくる。それでも零さないように気を付けた。
少女は自分が泣くと両親が悲しむと知っていた。
『おとーさん、だいじょーぶだよ。Aたくさんおべんきょーして、おいしゃさんになるから。そしたらAがおとーさんなおすから』
父親の服を握って、目を見て、精いっぱいの笑顔を浮かべる。
泣き笑いをする少女に目を向けた父親も、少女と同じ表情をした。
でも、父親は耐えられなかった。少女を強く抱きしめて、涙を零して泣いてしまった。
そんな父親を抱きしめ返しながら、遂に少女も涙を零した。
家族で一緒にいたい、幸せになりたい。ただそれだけだ。たったそれだけのことが、こんなにも難しい。
二人が落ち着いてきた頃、扉が開いて一人の女性が入って来た。
少女の母親だ。
何故こんなに遅くなったのか、どうして、母親も泣きそうな表情をしているのか。
嫌な予感というものはよく当たる。
少女は震える声で母親を呼んだ。
「ここに来てすぐに、院長に呼ばれたの。それで、あなたの病気、治らないって、」
言いながら母親の目から涙が零れた。
母親の言葉と涙に、少女はまた涙が溢れた。今度は簡単に止まりそうになかった。
母親も近づいてきて、三人で抱きしめ合う。
楽しそうな、嬉しそうな少女の笑い声は、聞こえなかった。
―――――――――――――――
翌日の午前07時02分、父親は永眠した。
そして同日、少女が父親の死を理解して泣き叫ぶ中、少女に父親の"個性"である【遮断】が発現した。
少女の"個性"が発動したのだ。
【譲受】
他者の"個性"を譲り受ける"個性"。
発動条件は対象者の承諾と、対象者の死。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月6日 22時
