百三歩目。 ページ4
―Aside―
まずは額の手当。血を拭って絆創膏を張るだけの簡易治療だけど化膿は防げる。
次に救出。この状態で女性を引き抜けば上の瓦礫が崩落する可能性がある。
だから彼女の代わりを用意する。
ポーチからエアバッグを取り出して女性と瓦礫の隙間に差し込む。これは既存のサポートアイテムだ。
救助時に使うものとして開発されたもの。風船のように縮んだ状態のもので、膨らむ速度と大きさを調節できる優れもの。クッション性があるから怪我にあたっても強い痛みを与えることはない。
あさひちゃんに少し離れるように伝えて、女性の胸下に腕を回す。
瓦礫に触れてなくても地面と接触してるから怪我した足に響く。だからできるだけゆっくり、傷に障らないように気を付ける。
隙間が広がるのに合わせてエアバッグを膨らませていく。
「っ、」
『もう少しです。大丈夫、あさひちゃんと一緒に帰れますからね』
女性発見から約５分、女性を瓦礫の下から引き出せた。崩落もない。
触診と聴診から外傷があるのは左足のふくらはぎ、右足も痛めてることを確認。
左足の流血と内出血。骨折してる想定かな。
意識ははっきりしてる。目の焦点も合ってる。貧血の症状も見られない。
『一度仰向けになってもらってから私が抱えますね。動くときに痛むと思いますが、最大限配慮します。力を抜いていてください』
「はい...」
上半身をねじりながら右足に手を添えて仰向けにする。左足をエアバッグに乗せて、地面に擦れないように。
力が入ったのか痛む表情をされたから改善しないと。お茶子ちゃんの【ゼログラビティ】ならもっと楽に助けてられたけど、私は私なりにできるようにならないと意味がない。
上着を女性の肩にかけて、足と腕の間にはさっき使ったエアバッグを挟んだまま、膝裏と背中に手をまわして女性を横抱きにする。
言われた通りにちゃんと離れたところで待ってくれてたあさひちゃんのところまで歩いて、声をかける。
『あさひちゃん、待っててくれてありがとう。今からきみとママを安全な所に連れて行くから私についてるしっぽ握っててくれるかな』
「うん！」
お母さんが出てこれたからか笑顔を見せてくれたあさひちゃんに安心して救護所に向かう。
ちなみにしっぽっていうのはベルトの余った部分。長めにしてるのは何かと使えるから。
敵を縛ったり、骨折した時に固定するために使ったり。
誰かを助けるためなら何だって利用する。"個性"もその一つだ。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月6日 22時
