百十歩目。 ページ11
―Aside―
結局寮に帰れたのは就寝時間の２時間前。思ったよりもずっと時間がかかった。
クラスのみんなが出迎えてくれて、祝われて、もう夜も遅いからとすぐに解散した。
お風呂に入って、ごはんを食べて、みんなが寝静まった頃に外に出た。頭を冷やしたかったから。
学生寮から少し離れたところにあるベンチに座って空を見上げる。
今日の夜空は少しだけ曇ってて、月が霞んでる。
目を閉じて、深呼吸。冷たい空気が気持ちいい。
あの後、警察署で話をして、聞いて。相澤先生とも話して。未来さんが来て、心配されて、褒められて。
未来さんも相澤先生のことも好きなのに、大人に囲まれてる状況が嫌で嫌で堪らなかった。
何度考えても【遮断】が危険な"個性"とは思えない。公安はまだ何か隠してる。
私の知らない使い方があるのかもしれない。私の知らない事例があるのかもしれない。
考えがまとまらない。思考が止まらない。頭が痛い。
『おかあさん...』
体調が悪い時はお母さんが撫でてくれると治った気がした。
不機嫌な時でもお母さんが抱きしめてくれると嬉しさで上書きされた。
このまま生きていれば、いずれお母さんと一緒にいた時間よりもいられなかった時間の方が多くなる。
やだなぁ...お母さんに会いたい。
別に死にたいとかそんなんじゃない。心操くんや未来さん、みんなに会えなくなるのもいやだ。
子供にとって絶対的な存在、それが"親"というもの。
私は失うのが少し早かった。忘れられないから、ずっと傷付いてる。
世の中、親のいない子供は珍しくない。虐待やネグレクトを受けてる子供も、親に愛されない子供だってたくさんいる。
私は恵まれてる。今も幸せだから。
どれくらいボーっとしてたのか分からない。不意に人の気配がして目を向ければ遠くから三人、歩いて来るのが見えた。
緑くんと爆破くん、それからオールマイト。
二人がボロボロなのは何でだろ。喧嘩でもしたのかな。オールマイトはその仲裁かな。
じっと見てたらあっちも私に気付いて爆破くんが怖い顔して、二人は驚いた顔をした。
『こんなところで何してるの？』
「そりゃこっちのセリフだわ。てめぇこそこんな時間に何してやがる」
『夜のお散歩』
「女の子が一人は危ないよ」
『これでも仮免持ってるよ？あ、煽ってないから怒らないでね、爆破くん』
「喧嘩売っとんのか！！」
『おぉ、こわ』
「まぁまぁ。遮止少女、もう遅いから君も戻りなさい」
『はーい』
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月6日 22時
