36-赤蜘蛛 ページ36
目が覚めてしまった。今、何時だ。というか何時間眠っていた？医務室に人の気配は無く、窓から入る日差しと伸びた影からおおよその時間を推測する。
「あ、ナイスタイミング？」
「軍医様、おはようございます……？」
「おはようさん。といってもAちゃん、何時間寝てたとか気になってるでしょ」
「それは」
どうも、軍医様には勝てないらしい。あっという間に主導権を握られてしまう。言い淀んでいると狙ったように彼が口を開いた。
「グルッペンに用があるんやろ。検査する程でも無いから、行っといで」
そうだ、総統閣下に話さなくては。あれから何日経とうと、関係無い。善は急げ、ひとらん様に教えて貰った言葉だ。
「総統閣下、お時間よろしいでしょうか」
「その件だが、近々、貴殿を幹部に昇級すると会議で決定してな」
まだ何も言っていないのだが、何を根拠にその件だと言ったんだ？
「自分が幹部に昇級、でありますか……」
「異論は認めん。これは幹部全員一致で決まった事だ」
「ですが、自分は」
「言わんとする事を当ててやろうか？女だから、だろう？」
まさにその通りだった。自分は女で、男だと偽ってきた。それに辞表も用意して来た。
「辞表は受理しない」
「何故ですか」
「貴様が有能だからだ」
用件はそれだけかと突っぱねられ、それだけですと意地になって返す。
「俺が知る限りでは“A・グラナート・バグローヴィ”という名の女性は軍にはいないはずだが？」
知っているくせに、こう言うときだけ機転を利かす。
「話は済んだな。ほら、部下達に伝えてこい。行った行った」
今度は追い出すように手を払われた。反抗する気も無く部下達に招集をかける。
「部下としてついて来てくれる者のみ、残ってくれ。一分待つ」
目を閉じて、懐中時計の秒針を数える。一周分きっちり数え終え、一呼吸置いて目を開けた。
「やはり、か」
わかっていた。女だと分かったら着いてくる者は居ないだろうと。後ろに消えた靴音がそれを物語っていた。
「総員、今だ！！」
「うわあ！？」
「自分達は例え司令官が女でも！一生着いていきます！！そう最初に誓いました！！」
その場にいた部下の全員が、力強く頷いた。
「ありがとう。ありがとう！」
「泣かないでください！司令官！！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紅鴇ﾍﾞﾆﾄｷ＠pc垢 - ミツユキさん» 誕生日プレゼントとしてもう一話更新しました！大きく動いた回(?)となっております！ (2020年7月6日 22時) (
レス) id: a79284f49c (このIDを非表示/違反報告)
ミツユキ - 更新ありがとうございます。私の、最高の誕生日プレゼントになりました！ (2020年7月6日 18時) (レス) id: c04652f79c (このIDを非表示/違反報告)
紅鴇ﾍﾞﾆﾄｷ＠pc垢 - わぎゃあコメントありがとうございます!!コメント嬉しすぎて語彙力追い付かないです。現時点が今作一番の山場ですが、しっかりとハッピーエンドに向いますので！それまでもう暫くお付き合いくださいませ！ (2020年7月5日 22時) (レス) id: a79284f49c (このIDを非表示/違反報告)
碧 - コメント失礼致します。とても丁寧に作り込まれたお話で、私の語彙力ではこのお話の素晴らしさを言い表すことが出来ません…！軍パロ作品の中でも特に繊細に作られたお話だと感じました。これからも素敵なお話を楽しみにしています！長文失礼致しました。 (2020年7月4日 17時) (レス) id: 7cbe04ba0e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
