アメジストを守る黒曜石 Ⅱ (ページ32)

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第76話なげきページ32

【エマside】

深夜の2時を回った。

…………眠れない。

ここ最近、寝られない日が続いている。

ノーマンがいないと私は何もできない。

私一人でなにができるの。

足が痛い、胸が苦しい。

その焦りに、恐怖に、毎日毎日食まれてどうにかなりそうだ。

ベッドに寝転がってもそれは同じ。

だから、夜のハウスを歩き回るのはここの所の日課になっていた。

暗い廊下に私のつく松葉杖の音が響く。

弟妹達は既に夢の中。起きているのはせいぜい私くらいだ。

蛇口からポタポタと水が垂れていた。

音が気になって仕方ないから捻って止めた。

そのままボーッと進んでいた時だ。

パリンッとガラスが床に叩きつけられたような音がした。

────誰か、いる

私は衝動のままに音のした部屋に向かった。

「……え？」

右の松葉杖がガタンと床に落ちた。

私がそこで見たのは、今まで見たことの無い衝撃すぎる光景だったから。

「なに……これ……？」

ヒビが入ってひっくり返った椅子。

本棚から溢れた本。

乱暴に破られた本。

飛び散ったガラスの破片に。

床のあちこちにつけられた血痕。

そして…………

「いい加減にしろよA！！！これ以上暴れたらお前が────」

「うるさいうるさいうるさい！！！！！私にいちいち指図すんな臆病者！！！」

肩で息をして満身創痍なレイ。

ドンに抑えられた荒々しいA。

……本当に何がどうなってるの……？

困惑する頭を巡らせていると、レイが私の存在に気がついた。

「エマ逃げろ！！危ねぇぞ！！」

急にそんな事を言われたから慌てて踵を返そうとしたけど、松葉杖が邪魔で思うように動けない。

片方の松葉杖だけじゃ上手く走れなくて転んだ。

困惑と焦りに苛まれて瞼を強く閉じた時。

「────エマ……？」

Aの優しい声色が私を呼んだ。

閉じた瞼をゆっくり開けると、潤んだ紫色と視線がぶつかった。

乱れた前髪から覗く深い悲しみに満ちた目。

床に雫がぽろり落ちるのと一緒に、Aの頭が垂れた。1つこぼれると2つと3つと後はもう止まらない。

「ずるいよ……ずるいよぉ……」

蝋燭の灯火のように消えそうな言葉は、私の胸をズキズキ痛ませた。