アメジストを守る黒曜石 Ⅱ (ページ31)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:64,656 hit

第75話おしえてよページ31

·

「ねぇ、ノーマンが何？ノーマンは“里親”の所に行ったんだよ？ただそれだけでしょ？」

「そ、それは……ッ」

「ねぇ……どうしたの？」

「…………教えてよ、お兄ちゃん」

胸ぐらを掴む手の力が抜けていった。

「教えて」

そういうAの目からは意志の強さと、どこか不安が混じっていて。

マズイ。

要らないことを口にしてしまった。

冷や汗が首を伝っていく。

この状況をどうやったら乗り越えられるのか。

考えても、何も思いつかない。

だから、俺はまた逃げた。

「………………お前には関係ねぇよ」

途端、ぐらりと視界が回転した。

じわじわと痛む左頬に手を添え、そこでやっと一瞬起きた出来事を再認識する。

見開いた目でAを見れば、泣いていた。

「なんで……なんでよ…………。なんでそうやっていつも話してくれないの……？」

とめどなく流れる涙が頬を伝い、月明かりに反射して落ちていく。

涙と一緒にAの口からどんどん言葉が溢れ出た。

「いつもそうだよ……“今度話す”……“関係ない”…………“そのうち分かる”とか言ってはぐらかして……」

「じゃあその“今度”はいつ来るの……？初めて言われた日から6年も経ったよ……！？ “関係ない”って何？私じゃ役に立たないの！？なんで……？私の何がいけないの！？」

「お兄ちゃんにとって私ってなに！！？助けてあげなきゃ何もできない赤ちゃんなの！？それともペット！！？お兄ちゃんにとって私はしつけなきゃいけないペットなの！！！？」

……そんなわけないだろ。

一時だってそんなこと思ったことなんてない。

なのに、否定したいのに。

声が出ない。

「違うなら違うって言ってよ！！お願いだからもう隠し事しないでよ！！！」

「ッ……」

「さあっ！！！さあっ！！！！」

腕を掴んで俺に迫ってくるAの足にガラスの破片がくい込んだ。

切れた足から出た血が床に小さな染みをいっぱい作っている。

痛いはずなのに。

早く応急処置しないといけないのに。

Aは俺から目を離さない。

俺も「違う」と言いたい。

たった一言じゃねぇか。

なのに、なのになんで。

────その一言が伝えられねぇんだよ……

「お兄ちゃんは臆病だ！！！！」