アメジストを守る黒曜石 Ⅱ (ページ29)

今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:64,661 hit

第73話かいことばページ29

·

俺以外誰もいなかった図書室に凛とした声が響いた。

その声はとても聞き慣れていて、そして今、俺が最も求めていた声。

頭で考えるより先に口が動いた。

「……A」

本能のままに名前を呼び、顔をあげれば血を分けた片割れが立っていた。

俺と同じ黒い髪は三つ編みが解かれ、宝石を嵌めたような2つの目は確かに俺を見据えている。

Aは手にもった物を俺に押し付けると、小さな口を開いた。

「これ、飲んで」

持っていたのは水の入ったグラスだった。

けど生憎今は喉など乾いていない、俺はAから目を逸らして拒む。

「要らない」

いつもならこれですぐに身を引くAなのに。

「ダメ、飲んで」

今日は何かおかしかった。

心做しかいつもより声が低い。

怒ってる……なんで？

「飲んでよ」

「だから要らない……」

「飲んで」

「要らない」

Aがしつこく俺の方にコップを押し付ける度に中から少しずつ水が零れて床に落ちていった。

どんなに俺が拒否しても、Aは絶対に引かず俺の方にコップを差し出してくる。

「飲んで」

「要らねぇっつってんだろ、怒るぞ……」

「飲んで！」

「だから要らねぇってば！！」

「いいから飲んでよ！！！」

「だから要らねぇんだよ！！！！」

あまりのしつこさに俺の堪忍袋の緒が切れた。

大声と共にテーブルをダンッと叩き立ち上がれば、さっきまでと視線が逆転し、今度はAを見下す形になる。

ほんとに何がしたい。

ここまで頑固なこいつは生まれて初めてだ。

怒りを含めて睨めば、Aも眉間に皺を寄せて負けじと俺を睨み返した。

「……退けよ」

「嫌だ、絶対退かない」

「邪魔」

「だろうね。邪魔してるんだから」

ああ言えばこう言う。

「いい加減にしろよ。本気で怒るぞ」

「怒ればいいよ。それでお兄ちゃんの気が済むなら」

何を言っても帰ってくる言葉は全部買い言葉、一体何が目的なんだ。

ただ水飲ませるためにここまでするか普通。

俺の中でイライラする気持ちが募っていった。