アメジストを守る黒曜石 Ⅱ (ページ17)

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第61話たいようとつきページ17

【ノーマンside】

蛇口を逆に捻る音と共に水の流れが止まった。

それと共に柔らかい手が僕の左手に触れ、冷たくなった左手に心地よい温もりが広がった。

「ノーマン」

鈴のような綺麗な声に呼ばれ、下げていた顔をあげる。

シルクのように白い肌。

誰よりも長く艶のある黒い髪。

紫色の宝石のような綺麗な瞳。

「A」

Aは僕と同じくらいまで屈むと、反対の手を僕の背中にまわし優しく摩ってくれた。

「顔色が悪いね……気持ち悪い？」

「吐き気とかない？」「横になる？」と優しい言葉を沢山かけてくれるA。

その顔はいつも以上に元気がない。

まるで自分の事のように心配してくれるAに、少しばかり安心感を持った自分がいた。

Aは昔から優しかった。

人の変化に敏感で、少しでも何かあると誰よりも早く気がついては自分のことのように悲しんで笑って。

エマと違って運動ができるわけじゃないし、どっちかと言うと活発なほうじゃない。

けれど心は真っ直ぐでひたむきで、ハウスの誰よりも慈愛に溢れてる。

エマがみんなを照らす“太陽”なら、Aはみんなを見守る“月”。

僕はそんなお月様に“嘘”をついた。

「ううんなんでもない。ちょっと立ちくらみしちゃって」

「ほんとに……？」

「うん、ほんとだよっ」

「…………」

最初は疑いの目を向けていたけど、ゆっくり立ち腕を上げて元気アピールをすれば、「そっか」と一息ついて微笑んだ。

「それならいいんだけどね……エマのことがあるから、ちょっと心配になっちゃって」

「っ……そうなんだ。ありがとう、心配してくれて」

「当然だよ！だって家族だもん！家族なら助け合わなくちゃ！」

……“助け合う”、か。

その一言が心にチクリと刺さって痛かった。

こんなに胸が痛くなるのは、思い当たる節がいっぱいあるからだろうか。

レイもこんな気持ちだったりするのかな？

そう思うとちょっとレイの気持ちが分かった気がした。

「ノーマン、笑って」

「……え？」

「お願い、笑って」

不意にそんなことを言われて戸惑った。

けど、目の前でふんわりと優しく笑うAに合わせるように、僕も口角を上にあげる。

僕は今、ちゃんと笑えているだろうか。