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「……ほんと、こういうの好きだね……」
「潤も好きじゃん。いっつも色んなの作ってるし」
「俺は……、そうでもないよ。簡単なのだけ」
「でも！ 私がお菓子始めたの、潤のせいなんだからね！」
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俺のせい、と言われても勝手に始めたのはAだろう。
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付き合いたて……どれくらい前だろうか、
その時Aは全くと言っていいほど料理に関して音痴だった。
今じゃ一人で何でも作れるくらいに、上達している。
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……Aの手料理をいつも楽しみにしている、なんて恥ずかしくて到底言えない。
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「それより……なんでこれ作ってるのか分かってるの？」
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背中にぐりぐりと鼻を押し付け、甘えるように訊ねてくる。
俺はそんなAに溶かされそうだ。
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「なんで――あ、誕生日か」
「そ、だよ……。ね、楽しみにしててね！」
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夏も終わろうとしている八月下旬。今日は俺の誕生日だった。
グイッと水を飲み干し、空のコップをシンクに静かに置いた。
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楽しみにしてる、と言葉にはせずに頭をぽんぽんと撫でた。
Aのお気に入りの仕種だ。
嬉しそうに顔を綻ばせる。
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「あ、おなかすいてる？ 何か作ろっか？」
「……いや。いいよ、パンでも食ってるから」
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パンを食べながらAのことを見ているだけでいい。
最高な、誕生日の朝だ。
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作者名：義経櫻 | 作成日時：2015年6月13日 23時
