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一瞬きょとんとした顔を見せて、戸惑ったように微笑む君。
「あのさ、」
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その髪飾りはあの彼氏に貰ったの？
嫉妬に支配されるとこんなにも醜くなれるんだなと感心しながら、
ゆるく髪を束ねるシュシュに手を伸ばした。
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「大野、く……」
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俺の行動が予測できなくて硬直する君は天敵に睨まれた小動物みたいで、
そのまま捕らえてしまいたくなる。
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「にあって、ない」
違う。
もっと違う言葉がある。
するりとその呪縛を解いて、さらさらの髪に指を通した。
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「な、に」
「縛らない方が、可愛いよ」
「あの、え、っと……」
俺を試すみたいに君のフレグランスがあたりを満たす。
「Aは何もしなくても、そのままでも十分可愛いのにね？」
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君の瞳が揺らいだ。
だって俺は知っている。
あいつの好みに合わせていることを。
それでも離れていくあいつに、戸惑っていることも。
だから。
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「俺と一緒にいれば、無理して背伸びする必要も、
話したいことを我慢する必要もないのにね」
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君は知らないだろう？
躊躇を欲望が飛び越えたとき、君を手に落とすのは造作もないということを。
君は知らないだろう？
だって君が読んだ小説には、
俺みたいな歪んだ恋慕をする男の述懐なんてなかっただろうから。
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「また話聞かせてね、A」
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電車に乗り込んで会話を断ち切る。
俺と君は反対方面だからこれ以上は何も起こりえない。
動き始める電車の窓から真っ赤に染めた顔を片手で覆っている君の姿が見えて、
俺は理不尽を打ち破る覚悟を決めた。
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・*End.*・
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作者名：義経櫻 | 作成日時：2019年3月9日 23時
