Astilbe 3 (ページ19)

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『だから、言わない』

それじゃあダメだよ。

辰哉君の心の声を聞きたい。

頑なに口を閉ざす辰哉君を前に、私は自分の右耳に付いている補聴器をそっと外した。

『なに、してるの』

「辰哉君の声をこの耳で聞くためだよ。」

機械越しなんかじゃなくて、直接この耳で。

「私ね、あれからまた難聴が少し悪化しちゃったの、」

『え、。そうなの、？大丈夫？』

「でもね、辰哉君の声だけはいつだってよく聞こえるの。今も聞こえてるよ。」

残されたわずかな右耳の聴力。

神様が今この瞬間も私から奪わないでいてくれた。

それはきっと辰哉君の声を聞くため。

私にはまだ音のあるこの世界で残された役目があるの。

辰哉君を守るっていう大事な役目が。

「辰哉君は私に優しい声をたくさんくれた。辰哉君にたくさん守ってもらってきた。」

「今度は私にそれをさせて？」

真っ直ぐ辰哉君を見つめると、辰哉君は私から目を逸らした。

辰哉君、大丈夫。

何にも心配いらないよ。

『本当は、』

『本当はずっと、、、怖い』

『明日、死ぬかもしれない』

辰哉君が消え入りそうな声で呟いた。

『多分、だけど。余命宣告とかされてる、と思う。』

辰哉君も知ってるんだ。

自分の置かれた状況を。