ラナンキュラス (ページ47)

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定時過ぎの時間
久々に営業部のフロアに行くと
見知った面々が“おお！”とか“久しぶり！”
なんて言って迎えてくれる
まだ異動して少しか経ってないのに
随分昔のように感じてしまうのは
今の仕事に忙殺されているからかもしれない

「お？A、企画部から追い出された？」

営業部の事務所に入ろうとした時、
声のした方を向くと呼んだ張本人の湧

「あのさぁ、誰に呼ばれてここに来たと思ってるの？」

「あ、俺か笑」

「俺ですよ、俺。はい、これ。頼まれてた奴」

「おー！マジ助かるわ！サンキューA！」

今から10分前、湧が急ぎ！とか言って電話してきたから
すぐに届けに来たけれどこの様子だと明日でも良かったっぽいな

「本当は急ぎじゃないでしょ？」

「いや、急ぎ。明日の朝の会議で使うやつ」

「だったらそう言ってよ！仕事抜けてきたのに！」

「お前が…っと、電話だわ」

口パクで“ちょっとここで待っててくんね？“と湧に言われたから
まだ話ある？と思いつつ大人しく待つ

待っている間、立ってるのもなんだしと湧の席に座る
周りを見渡してみるとすぐに目に止まったのは黒田くんの席
けれど当の本人の姿はない。定時過ぎたのにまだ戻ってないんだ…

そういえば、最後に黒田くんから連絡がきたのはいつだったけ？
異動する前は結構頻繁に飲みにも行ってたし、
異動してからすぐは連絡が来てたのに

「黒田なら今日は戻んねーぜ？」

あいつ最近忙しそうなんだよなー。と電話が終わった湧に言われる

「そっか。最近黒田くんから連絡来ないから
　忙しいんだろうなとは思ってたけど。」

「…お前さぁ、それだけ？」

「ん？それだけって？」

呆れた顔して湧に言われたけどなんでなのかさっぱりわからない
異動後連絡もらっても正直余裕がなくて
ろくな返事できてなかったってのはあるけど…と
難しい顔を私がしてたせいか湧はそれ以上言ってくることはなく
私も仕事が残っているからと営業部を後にした

湧と話した日以降も変わらず
黒田くんからの連絡が来ることも会うこともなかった

最初は物理的な距離は離れて
新しい仕事に集中できてるしそれでいいと思ってたのに
本当に自分勝手だけど黒田くんと一緒にいる時間は確かに楽しくて
今まであったものがなくなるのは寂しいな。なんて思うようになっていた。