墨塗の兇譚・弐【オリオンの刻印】 (ページ36)

今日:5 hit、昨日:13 hit、合計:133,255 hit

80話「手が滑った」ページ36

点差を即座に埋め、勢いに乗った日本代表。
ボールは鬼道の元へ。

「鬼道さん！俺に考えが……」

そんな鬼道に氷浦がパスを促す。
鬼道は彼の言う通りにボールを回した。

「そうはさせない！」

失敗続きで焦っている様子の一星が、自身のスパイクから鏡を出し、氷浦の近くへ向かう。

「妨害してやる……！」

どうやら再び目眩しを仕掛けるようだ。

「いくぞーっ！」
「フッ」
「面白ェ……！」

鬼道の呼びかけに灰崎と不動が応じる。

「ふん……ッ！」

氷浦が気力を込めると、ボールは氷の塊と化す。
その氷塊をより鋭利にしたところで技名を叫びながら強力なひと蹴りを見舞った。

「『氷の槍』っ！！」

閃光のごとき氷の線が滑らかに進む。
そのラインに沿って鬼道、灰崎、不動が飛び上がり…

「『デスクラッシャーゾーン』！！」

3人同時にボールを踏みつけ、黒いエネルギーとともにシュートを放出した。

「くは…ッ！！」

目の前に立っていた一星は正面からシュートを食らい、吹き飛ばされた。

そして一星のみならずオーストラリアの選手も次々と飛ばされていき…

「ゴォーール！！必殺技を複合させるオーバーライド炸裂ゥーッ！！新たなる必殺技だぁー！！」

ついに同点へと追いついた。

「うおおーッ！！」

ベンチの剛陣が興奮の雄叫びを上げる。
夏未もほっとしたように微笑んだ。

日本代表の追いつき様を見かねたサタンは、

「仕方ない……最後の切り札を打つッ！！カカカカカ！！」

姿をさらに変貌させ、狂ったように笑うのであった。

「一星」

倒れた一星の元へ鬼道が近づき、

「大丈夫か？立てるか？」

と、手を差し伸べた。

一星は先ほど稲森にしたように彼の瞳を数秒見つめた末、その手を握った。
そしてゆっくりと立ち上がろうとした時……

「っ！？」

……鬼道が故意にその手を緩めた。

一星は当然尻餅をつく。

「ぐぅッ！」
「すまん」

一星によくもやったなとばかりに睨まれている鬼道は一言。

「……手が滑った」

それだけ言うと、鬼道はそのまま一星を救い出すこともせず去った。
傍らでは一星を心配そうに見る稲森に、愉快痛快といった様子の灰崎と吉良。
琴平もその様子は見ていたが、

(人の不幸はこの上ない酒の肴とはよく言うが……)

その眉間にはしわが寄っていた。

「……いささか度が過ぎるぞ、鬼道。これでは狙われても致仕方無し」

ま、わしには関係ないがの、と付け足し、琴平はその場を後にした。

そして一星は怒りに満ちた表情で、

(鬼道……お前は……お前だけは……ッ！絶ッ対に許さん！！)

颯爽と歩く鬼道の背中を睨んだ。