Rain

S._33 ページ33

真夏の夜。
エアコン無しで寝られるほどあたしの体は強くなかった。



エンジンのかからない車体は窓を開けることも出来ない。
隣で汗を光らせながら眠る彼の邪魔はしたくなくて、そーっと車から抜け出した。
ついでに風を送る意味で扉はそのまま開けておく。



警察は戻ってこない。
令状もとっていない割に証拠品の押収はきちんとしているのかもしれない。
あそこには凶器も大毅のDNAも全て残っている。



このまま逃げてしまえば…
国外へ抜け出せば、捕まることはないんじゃないか。
もう一度大毅にだって、普通に生きるチャンスが。



｢何をされているのですか？私共の車で｣



あっ、と声を上げてしまった時にはもう視界から消えていた。
足元から聞こえる吐息と隣に感じた狂気。



『A多分目瞑って耳塞いだ方がええで』


『車乗っときなぁ』



犯罪者の顔がそこにあった。
嗤っているのだ。
あたしに見せたことの無い嬉しそうな顔をして赤い飛沫が上がるのを待っている。



とてもじゃないけど見られなくて。



いや、見たくなくて。



大毅が本当に、簡単に人を殺す人間なんだと見たくなかった。
あたしの前ではあの時以外普通の人間だったもの。



思いは届かない。
塞ぎきれない悲痛な叫びと銃声が届き、笑顔のまま車のキーを回し運転席に乗り込んできた。



『でもやっぱナイフがいいな。銃はすぐ死ぬからおもんない』



血も浴びれん、と。



『何怯えてるん笑 さ、逃げよ』



勢いよくアクセルを踏み込んだ。
冷房がやっと、効き始めた。

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