【BIG CITY RODEO / GENERATIONS】 CROWN

CROWN No.29 ページ29

‥




男が飛ばされた先には鋼材が積まれていて、彼は見事に背中からダイブした。
ガランガランと金属音を立てて、それらは崩れる。
さほどそこから離れていないから耳が劈(つんざ)くような感覚に襲われて、思わず耳を塞ぐ。



ありえない光景を見た、と思った。
頭から泥々しい血を流している男に馬乗りして、ひたすら拳を入れていく裕太。



初めは抵抗していた男。
だけど、そのうち体は動かなくなってきて。
強く握りしめられていた手は、軽く開かれて地面に寝た。
それでも、殴ることをやめない裕太。
赤髪のせいもあるのだろうけど、男を見下すようなあの瞳は、あの表情は……



もう、ただ "鬼" を見ているとしか思えなかった。




薄暗い空間。
落とされた照明は弱く、裕太の顔をちゃんと照らすことはない。
影になった彼のその顔は、もう到底見れるモノじゃなくて。
見開かれた目は、目の前の男を殴ることしか頭の中にはないように見える。









A「……、て……」


隼「Aちゃん？」


A「……や、めて」









拳の音以外沈黙に沈んでいたおかげで、今にも消え入りそうでも、声はちゃんと裕太に届いた。
彼はぴたりと動きを止めて、ゆっくり腕を下ろして。
それから立ち上がって、180度回ってこちらに向いた。
手の甲で、ゆっくりと、頬や顎に滴る血液を拭(ぬぐ)う。



彼の行動には、何の躊躇も感じられなかった。
止めていなければ、彼はあのまま殺していたんじゃないかと思う。
まさか、彼が刑務所に入った理由は……



…………



思わず、息を呑んだ。
彼のシャツはおろか、顔にも男の血が飛び散っていた。
伏目がちだった彼の目は、そのうち私に向いて止まる。
ただ怯える目で彼を見ることしか、できない。



裕太は拳を開くことなく、こちらに戻ってくる。
隼の、私の体を支える手に込める力が強くなった気がしたけどそれどころじゃない。
隼の服を掴んでいた手が震え出す。









裕太「……大丈夫か」









怯え切っている私にかけた裕太のその声はさっきとまるで逆で、パーティーが始まる前の彼と同じだった。









A「ん、大丈……衣装、汚……ちゃっ……」


裕太「気にせんでええよ。
　また何でも新しいの、選んだらええ」









しゃがんだ裕太は、そのまま手を私の頬に。
びくっと体が跳ねると、彼は申しわけなさそうな哀しい顔で『……すまん』と手を戻した。
ちょうど、男の血を拭った手だった。





‥

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