33:二人の好きなもの ページ34
アイラビットの楽屋の前で天が立ち止まる。呼吸を整えて扉をノックした。
はーい、というユウリのものらしき声が聞こえて扉が開く。
「九条先輩! おはようございます!」
いつものハイテンションだ。挨拶を返しながらそっと楽屋の中を確認すると、天を見て不機嫌そうな顔をした音葉と目が合った。Aの姿はないようだ。ほっとしたような、残念なような。
「これ」
天がユウリに小さな箱を渡す。
「なんですか?」
ユウリはわざとらしく首を傾げたが、すぐに箱の中身がわかったのだろう、ぱっと目を輝かせた。
「え? さしいれ? いいんですか? もらっても!?」
今にも箱を開けそうな勢いである。さしだした箱を一度ひっこめてから言い聞かせる。
「キミのじゃないから」
「Aに、ですね」
ユウリはすぐに笑って答えた。この女は、と天は顔をしかめる。
「渡しておきます。受け取ってくれるかわかんないけど」
箱を丁寧に受け取ったユウリは苦笑した。
Aはどうしたのだろうか。気になってもとても聞ける空気ではない。ユウリのことだから、この前のことを知っていてもおかしくはないだろう。
音葉からの無言の視線も痛いので、天が楽屋を去ろうとすると、ユウリが「九条先輩」と天を呼び止めた。
「今度、あの音楽番組にあたしたちもでるんです」
ユウリが言ったのは、アイラビットがデビューを果たした高視聴率音楽番組、のことだ。今度TRIGGERも出演する予定になっている。同じ日にアイラビットが出演することも知っていた。
「Aの歌声、生で聞いてあげてください。あの子の本気がわかるはずです」
――本気?
天が振り返ると、ユウリはふふっと笑った。よく笑う女だ。Aもこうやって簡単に笑ってくれればいいのに、と天は思った。簡単に笑わないからこそ、その笑顔を見たくなるのだろうか。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2016年12月20日 14時