03:きらきら世界 ページ4
Aが顔を上げるとビルの壁面に備え付けられた大型テレビに自分の顔が映し出されていた。
しかもドアップ。思わず目をそらす。この感覚にはしばらく慣れそうにない。
Aは変装のためにかぶっていた帽子をさらに深くかぶりなおして足を進めた。昨日のような失態はもう御免だった。今日は時間をしっかり確認し、余裕を持って家をでた。忘れ物もない。走ってもいない。心の準備はできていなかったが。
「はあ・・・」
もう何度吐いたかわからないため息を吐く。
足が重かった。昨日はあれだけ必死だったのに、今日は時間がありすぎて逆に足取りが重くなる。
「見て、TRIGGERだ!」
そのとき、近くから聞こえただれかの声にAはびくっと肩を震わせた。
頭の中に「トリガー」という言葉の響きが何度も浮かんでは消える。
トリガー、トリガー、トリガー、トリガー・・・
慌てて小さく視線を動かすと視界の隅に彼らの姿が映った。
「ドラマの撮影だって」
ひろわなくていいのに人混みの中からそんな言葉が耳に入ってくる。
Aの目にうつった三人は今この空間の中で最もキラキラと輝いていて、まるで別世界の人だった。
彼らの背後でビルの大型テレビにうつしだされている自分の顔なんかとはレベルが違う。
「九条、天さん」
小さく呟く。
――昨日のこと覚えてるかな。
ぶつかった上に謝りもしない。事務所の先輩なのに無視をした。
改めて考えてみると自分の印象は最悪。それにAはもっと重大な問題を抱えている。
――あ。
そのとき、Aは視線の先にいる九条天と視線が合った、ような気がした。
それは本当に一瞬のことだったが、彼は驚いたように目を丸くしてAをとらえた。
「ひっ」
次の瞬間Aは走っていた。何かに背中を押されるように。とにかくここから離れなければならない、と思った。九条天の目の届かないところに。
問題を先延ばしにしても消えてなくなることはないというのに。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2016年12月20日 14時