29:風邪引きメランコリー ページ30
天とAが公園で話をしてから一週間ほどが経った。どうもあれから、ドーナツを食べる彼女の笑顔が頭をちらついて調子がおかしくなる。
Aのことは未だによくわからない。礼儀がなっていないと注意したら泣かれて、道に迷ったというから送り届けたらドーナツを持ってきて、挙句の果てには衣装を一人で着れないからと男である自分を手伝わせるし、ドーナツを食べて笑顔になる。思えばここ数か月でAの印象はコロコロと変化していた。
―――― ―――― ―――― ――――
その日、TRIGGERが事務所に戻ると、アイラビットと鉢合わせた。
しかし、今日はユウリと音葉の二人だけで、いつも後ろにくっついているAの姿が見えない。
天が気にしないようにして挨拶を交わすと、楽が口を開いた。
「後ろの小さいのはどこいったんだ?」
――その聞き方はどうなの。
呆れたものの、確かにAはいつも縮こまっていて小さいイメージがあるので納得してしまう。
楽の問いに、ユウリは、ああ、と気まずい顔をしたあとに頭に手を当てた。
「Aは風邪引いちゃって」
てへへ、とユウリが笑う。その隣で音葉が、心配そうな顔をしていた。
「大丈夫なの?」
思わず天がそう聞くと、楽と龍之介がそろって天を見た。
何かおかしなことを言ったか、と天が首をかしげる。
「大丈夫ですよ〜。でも熱が下がらないみたいなんで、しばらくは休養ですね〜」
ユウリはAの母親のような口ぶりだった。
「仕事は?」
「あたしと音っち――音葉でなんとかカバーしますよ!」
天が続けて聞くと、ユウリは元気よくそう答えて笑った。
まあ、この二人ならしばらくは大丈夫だろう、と天は思った。
仕事よりAの心配をしていることに、天は気づいていない。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2016年12月20日 14時