【アイナナ】天使vs天使、じゃないの？【九条天】 (ページ29)

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28：大切な人ページ29

この様子なら話してくれるかもしれないと思った天は、ずっと気になっていたことをAに問いかけた。

「なんでアイドルになろうと思ったの」

Aはどうもアイドル活動に積極的ではない、ように見える。
正直に言ってしまえば、仕事をやらされている、という印象が強いのだ。

「なんで・・・」

Aは地面に視線を落として、そのまま黙り込んだ。

「なんででしょう・・・？」

そして首を傾げる。

「わからないの？」
「うっ、すみません。わたし、いろいろ考えるのに時間がかかっ、て」

視線を彷徨わせているAは、言葉を選ぶのに時間がかかるようだった。

「でも、憧れてた、わけじゃないんです」

一つ一つ、言葉を吟味して口にする。彼女のペースに合わせようと天は言葉の続きを待った。

「アイドルに嫉妬して、アイドルになりたいって」
「嫉妬？」

Aの口から紡がれた言葉は、意外なものだった。人にはそれぞれ理由があるが、嫉妬してアイドルになりたい、とはどういうことなのだろうか。

しかし、Aは天の問いには答えることなく、次の言葉を口にする。

「大切な人のために、歌ってるんです」
「大切な人・・・」

彼女の口から“大切”という言葉が発せられたことに、言いようのない感情が沸き上がる。

「わたし歌うのが大好きなんです」

Aは天のことなど気にすることなく、ひとり言をつぶやくようにそう言った。
そのままドーナツを食べ終えるまでAは何も話さなかった。