16:お隣さんは ページ17
アイラビットは爆発的に売れたアイドルユニットだ。まだデビューして一か月半ほど。しかし彼女たちに舞い込む仕事の量は日に日に増え、Aはまともに学校へ通うことができなくなってきていた。
今日は久々の登校日。一日ゆっくり授業が受けられる。こういう平凡な日常も幸せだな、と思いかけたAであったが。
――あ、教科書、忘れた。
次は数学だ。しかし鞄の中を探っても数学の教科書が見当たらない。
――どうしよう・・・。
最近行われた席替えのせいで、ユウリとは席が離れてしまった。頼る相手がいない。
ちらっと隣の席の男子生徒を見てみる。
――貸してくれるかな。
隣の席の男子はAの記憶が正しければ、和泉一織という男子生徒だった。
真面目そうな人で、ちょっと話しかけずらい。
しかし数学の授業は教科書がないと厳しい。
数学の教師はよく生徒を指名して問題を解かせるからだ。
「あ、あの、すみません」
思い切って隣に声をかけると、和泉一織が顔を上げた。
「なんですか」
思ったより冷たい声でAの内気レベルが急速に上がる。
「す、数学の教科書、忘れてしまって。その」
視線をさ迷わせながら言葉にするが、思ったように声がでない。
「見せてもらっても、いいですか・・・」
最後は少し弱くなってしまった。
――緊張した・・・。
「いいですよ」
しばらくAをじっと見つめていた一織は、あっさり了承した。Aはほっと胸をなでおろす。
しかし急に一織が机をがたっと動かしたことによって、Aの心臓がきゅっと縮んだ。
「机」
「え!?」
心臓が止まりかけて焦っているAは、さらにおおげさに驚いた。クラスメイトの視線が刺さるようだ。
「くっつけてください」
「あ、はい」
びしっと言われて思わず固まる。天ほどではないが、こわい、とAの心は震えた。
「ごめんなさい・・・」
――見せてっていったのはわたしなのに。
変な行動をとってしまった自分に恥ずかしさを覚えながら、Aはそっと机を寄せた。
それからすぐに授業開始のチャイムが鳴り、二人は言葉を交わすこともなく授業が始まった。
――― ―――― ―――― ――――
Aちゃんの学校生活をちらっとお見せします。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2016年12月20日 14時