46:消えていくの ページ7
Aはいつもの公園に来ていた。この公園にはよく足を運ぶ。ドーナツを食べるときだけではなく、落ち込んだ時や悩みがある時もよくここで考え事をした。最近はアイラビットのユウリと音葉が一緒にいるときもあるし、なぜか九条天がいるときもあった。
「いた」
そんなことを考えていたせいだろうか。
声が聞こえて前を向くと、桃色のカーディガンが視界に入った。九条天だった。
「九条さん」
Aは驚いたが、いつものように飛び上がることはなかった。
「隣座ってもいい?」
問いかけられて黙ってうなづく。ベンチの端に身を寄せると、天が隣に腰を下ろした。
「今日はドーナツパーティじゃないの?」
ドーナツ、という単語を聞いても元気がでなかった。最近、甘いものを口にしていない。
「仕事の話、聞いたでしょ」
Aが黙っていると、天が続けて仕事の話をした。
マネージャーから聞いた雑誌の仕事のことだろう。
「はい」
そのことで悩んでいたので、Aは正直焦った。天はこの仕事を受けるのだろうか。
「ボクは正直迷ってる。キミと仕事をしてファンが喜ぶかどうか」
「わたしは、つらいです」
天が迷っていると聞いて、Aは思わずそう答えた。言葉が足りない、ということは自分でもわかる。彼が受ける、と言ったらAもそれに合わせていたかもしれない。
「どういう意味」
急に天の表情が曇る。
「なんて、いったらいいか」
Aは言葉が浮かんでこなくてしばらく口ごもった。いろんなことが頭の中をぐるぐる回っていて、いつもより言葉を選ぶのが難しい。あれもこれも、同時に考えることができない。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2017年1月1日 0時