【アイナナ】天使vs天使、じゃないの？？【九条天】 (ページ45)

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84：さようならページ45

『はい、桜井です』

Aの声は落ち着いていた。

「どこにいるの！？」
『九条さん、おはようございます』

天が慌てているというのに、Aはのんきなものだった。

「ライブ、中止になったんじゃ」
『中止にできませんでした。ファン、が待ってるから』

淡々と話すAは、いまどんな顔をしているのだろう。
きっと彼女は一人だ。そばにはだれもいない。

『九条さん、わたしの歌聞いてくれますか』

Aが落ち着いた声で天の名前を呼んだ。

『わたし、初めてお父さん以外の人に、この歌を聴いてほしいって、思いました』

そう言われて、天はいますぐAに会いたいと思った。会ってその手をとって、抱きしめてあげたかった。
どうしていつも思った通りにいかないのだろう。

『九条さん、ありがとうございます』

「行かないで」

『どこにも行きません』

Aは子供をあやす母親のような口ぶりだった。その声は少し笑っていた。
でも天は笑うことなんてできなかった。Aが離れていくのがわかった。

「いいたいことがある」

『すみません、聞けないんです』

「ライブが終わったら」

『ごめんなさい』

プチッという音とともに通話が切れる。
すぐにかけなおしたが、Aはでない。

「馬鹿」

冗談じゃない。
こんな終わり方は望んでいない。

いつだって手をつないであげると約束したのに。
Aにとってはもう手をつなぐ予定なんてなかったのか？

気が付いたら走り出していた。