77:その笑顔が好き ページ38
「泣かないで」
天はAの手をぎゅっと強く握る。
「キミはアイドルだよ」
まっすぐ目を見て伝えた。
「お父さんにキミの歌を届けたいんでしょ」
天の言葉に、Aはゆっくり頷いた。
「お父さんだってキミのファンだ。ファンを楽しませることはボクたちにとって一番大切なことだと思うけど?」
きっとAの父親はAがアイドルでなくても彼女の一番のファンだっただろう。内気な性格でこんなに無理をしなくても、Aは父親を笑顔にできていたはずだ。
「それにキミの歌を聞いて、惹かれる人もたくさん、いる」
なんとなくAと目を合わせにくくて視線をそらす。Aは天の言葉に、困ったように笑った。
「そうだといいですね」
たくさん、の部分に想いを込めたのに、たぶんAは気づいていない。
「ボクは好きだよ」
「え?」
こうなったらストレートにいくしかない。
「キミの、歌が」
でも天は素直に言えなかった。歌だけではないのに。
「あ、ありがとうござ、い、ます」
Aは急にいつものおどおどした状態に戻って、ぺこぺこと頭を下げた。
「ふっ」
「なんですか!?」
天が思わず吹き出すと、Aがおおげさに飛び上がった。
「今日はよくしゃべるね」
こんなに話すAは一度も見たことがない。彼女のことを知れてよかった。
「ほんとですね」
そう言って笑ったAを見て、ただ純粋にかわいいなと天は思った。
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作者名:兎田夏 | 作成日時:2017年1月1日 0時