57：飴玉の仲 ページ18
一時間目の授業が終わって、Aは教科書を鞄にしまった。次の時間は英語だ。
「なあ、いおりん。英語のノート見して」
隣の席に座る一織のもとに一人の男子生徒が近寄ってきた。
「またですか」
一織が眉間にしわを寄せる。
「あ、ちーさん」
すると、背の高い彼は一織の隣に座っているAに気づいたようだった。
「環くん」
Aが彼の名前を呼ぶと、隣で一織がぽかんっと口をあけた。
「ちーさん？」
「チビだからちーさん」
環がAを指さして説明する。一織はそれを聞いて声を上げた。
「はあ？」
「い、いいんです。わたし、チビで、遅刻魔、だし」
Aがそういうと、一織は呆れていた。
「ちーさんも忙しそうだな」
環がそう言ってポケットから何かを取り出し、Aに渡す。
「そんなことないよ」
Aは当たり前のようにそれを受け取った。それは小さな飴玉だった。
「環くんも、忙しそうだね」
IDOLiSH7とMEZZO"のことを思い出してAが苦笑する。
環とAは去年同じクラスで、そのとき席が隣同士になったことから仲良くなったのだ。
環がAを見ると甘いものを渡すのもそのときからの習慣だった。
「お互いがんばりましょう」
一織が急にそんなことをいいだしたので、Aは首をかしげる。
「テスト、のこと？」
「何言ってるんですか、仕事のことです」
「仕事・・・」
一織のほうこそ何を言っているんだ、とAは少し考える。
「同業者ですよ」
Aが意味を理解していないようなので、一織が答えに導くと、Aは目を見開いて固まった。
「い、和泉くんって、IDOLiSH7の・・・一織くん？」
Aは驚いて若干思考が停止しかけている。
「知らなかったんですか」
「ごめんなさい。まさか、隣にアイドルがいると、思わなくて」
「あなたもアイドルでしょう」
一織の言葉で、そういえばそうだった、とAは思い出した。アイドルらしいことなんて何一つしていないと、自分では思っている。仲間のことも支えられないくせにセンターだ。音葉はいまごろ何をしているだろう。ちゃんと授業は受けられただろうか。
「わたしなんて、アイドルじゃない、です」
俯いたAのことを、環がじっと見ていた。
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作者名：兎田夏
| 作成日時：2017年1月1日 0時
