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56:その胸の痛み ページ17

単独ライブが決定してからもうすぐ一か月が経つ。

今日はユウリが別の仕事でまだ来ていない。楽屋にはAと音葉の二人だけだった。
Aも音葉もおとなしい性格なので、二人だけだと妙に静かだ。音葉はAのことを慕っているので、仲が悪いというわけではないのだが。


「音葉・・・?」


さきほどから音葉はずっとぼーっとしている。ユウリが休んでいたときから少し様子がおかしいな、とAは思っていた。スマホをじっと見ていたり、今日みたいにぼーっとしていることが多いからだ。ユウリが戻ってきても音葉の調子が戻らないので、Aは不思議に思う。


「え? あ、ああ、すみません、先輩。なんでしたか?」


音葉が驚いて顔を上げた。心ここにあらず、といった感じだ。


「音葉、疲れてる? 休んだほうが、いいんじゃ」


音葉はユウリが休んでいた間、ほぼ一人でアイラビットの仕事を切り盛りしていた。Aの代わりにスタッフに事情を説明したり、ユウリに連絡をとったり、音葉の仕事はいつもの二倍以上だった。


「大丈夫です! もう! 先輩に心配をかけるなんて後輩失格ですね!」


そう言って音葉は笑った。


「音葉・・・」


Aは音葉の言葉を素直に信じることができなかった。

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作者名:兎田夏 | 作成日時:2017年1月1日 0時

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