51：つないだ手 ページ12
「ごめん。言い方が悪かった」
謝ると、Aは目をそらした。
このままでは仕事にならない。Aも余計に笑わなくなる。
「ボクは仕事に穴をあける人間は嫌い」
俯いているAのことをまっすぐ見て言った。
「でもキミにとっては大切な仲間だ」
――大好きなドーナツが喉を通らなくなるくらい。
いつもAはユウリの後ろをついて回っていた。まるで姉妹のようだった。
「彼女が安心して戻ってこれるように、キミはキミの仕事をして。すぐに戻ってくるよ」
強めに、でも最後は優しく、言い聞かせた。
Aはしばらくして「はい」と小さく消え入るような声で返事をした。
これが本当の最終手段だ。ドーナツよりも効き目があるもの。
「カメラの向こうに大切な人がいると思って」
本当はそんなこと言いたくなかった。天は自分の言葉でAを笑顔にしたいと思っていた。
でも時間がない。仕事が優先だ。
少しだけAの瞳に光が宿ったのを見て、嬉しいような寂しいような、複雑な気分になる。
「キミが不安なとき、大切な人は何をしてくれるの」
突っ立ったまま動こうとしないAに天が問いかける。
「手を」
しばらく悩んだAは、自分の右手を左手でぎゅっと握りしめた。
「つないでくれます」
「・・・わかった」
代わりになれるかどうか、自信はなかった。
「目をつむって」
Aが警戒しながらも目を瞑る。天はそれを確認して、彼女の手を引き寄せてつないだ。いつものようにびくっとしたAは、すぐにおとなしくなって天のされるがままだった。
――小さい手。
こんな手で今までどうやって生きてきたんだろう。一人じゃないからここまでこれたのか。
「がんばります」
しばらくしてAは目を開いた。天が手を離すと、Aはその手をずっと見つめていた。
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作者名：兎田夏
| 作成日時：2017年1月1日 0時
