【アイナナ】天使vs天使、じゃないの？？【九条天】 (ページ36)

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75：大切な人ページ36

「九条さん」
「なに」

Aは病室のベッドの上で、天の名前を呼んだ。
Aがおとなしく言うことを聞いてくれてほっとする。

天はベッドの横の椅子に座って彼女を見た。
二人は手をつないだままだった。

「九条さんは、いいました。なんでアイドルになったのって」

だいぶ前の話だ。そんなことを聞いたな、と天は懐かしくなった。
ゆっくり、Aは語りだした。

「わたし、アイドルがうらやましかった。わたしも、お父さんにほめてもらいたくて」
「お父さん？」

Aの口からでた意外な人物に思わず声が大きくなる。
しかしAは気にすることなく話をつづけた。

「わたしの父は八乙女社長の知り合いで、二人は仲が良くて、父もアイドルをプロデュースしてたんです」

社長の名前がでてきて天は納得した。Aがたびたび社長室を訪れていたのは、アイドルになる前から顔見知りだったからだ。Aが社長室で寝ているのをみつけたときは、知ってはいけないことを知ってしまったのか、と正直焦ったが何もなくて安心する。

「お父さんはアイドルのお話をたくさんしてくれた。一緒にライブにつれていってくれたり、自分の担当するアイドルのこと、楽しそうに話してくれたりしました。アイドルはキラキラしてて、みんなを幸せにしてくれるんだって。その幸せを作るお手伝いができてすごく嬉しいって」

父親の話をするAは本当に幸せそうだった。天にはAの大切な人がだれであるのか、すぐにわかった。父親が相手では永遠に勝てそうにない。

「お父さんのその笑顔が大好きで、その笑顔を作っているアイドルが、うらやましくなりました。わたしのことも見て、欲しかった。わたしが歌をうたうと、お父さん、喜んでくれたから。わたしにもできるって。わたしだって、お父さんの大好きなアイドルになれるって、思ったんです。だからお父さんにアイドルになるって約束しました」

小さなAを想像する。父親に自分の夢を語る姿を。