第14話 ページ26
【健人目線】
最近、少しAの様子がおかしい。
確かこの前、外出許可が出て菊池と一緒に出掛けてからだ。
俺が見舞いに来ると、ベッドの上にはどこか上の空なAがいて、声を掛ければ変わらない笑顔で俺を見てくれるけれど、やはり1人になるとまた難しいような、切ない顔をしている。
「……A?」
「お兄ちゃん。……あのさ」
「うん?何?」
珍しく真剣な眼差しで見つめられるから、俺は椅子に腰掛けてAと目線を合わせて彼女を見つめる。
「お兄ちゃん、……その、今、…彼女とか、いたりする?」
「………ん?」
予想の斜め上をいく問い掛けに、キョトンとしてしまう。
「実は私に内緒で、彼女います〜!みたいな!………ない?」
「……いや、何いきなり。どうした?」
やけにキャピキャピしながら聞いてくるものだから、逆に不気味に見えてきた。
俺が困惑していれば、Aの表情がすん、と元に戻り、小さく肩を落とす。
「ごめん……。やっぱなんでもない。忘れて」
「いや、そんな事言われてもな。…Aに内緒で付き合ってる相手がいるわけないよ。それに、俺、一応アイドルだし」
「…………そうだよね。アイドルだもんね。Sexy Zoneだもん…」
俺の答えに、Aは寂しそうな顔をして、黙り込んでしまう。
今更になって気付いたが、もしかしたらAの記憶が少し戻りかけているのではないだろうか。
菊池と、あの日何があったかはわからないけれど、あの日を境に少し様子がおかしくなっているのは紛れも無い事実だ。
「なぁ、A。お前、もしかして、菊池との事…、思い出したんじゃ……」
「……思い、出す?風磨君との、事?」
キョトンとしながら俺を見て、小首を傾けるA。
俺の勘違いかと肩を小さく落として、「なんでもない」とAに言うと、Aは不思議そうな顔をした。
「…私、風磨君の事、…好きになっちゃったかも」
ぽつり、と呟かれたAの言葉に、俺は動揺してしまい何も言えずにいると、Aは俺の様子に気付いたのか、明るく笑ってからすぐにまた寂しそうな表情に変わる。
「あはは。……わかってるよ、叶わない恋だって。ごめんね、お兄ちゃんにこんな事言って」
そういえば1年前、同じ事をAに言われたっけ。
そんな事を思っていたら、病室の外に人影があったのに気付く。
その人影はスッといなくなり、恐らくアイツだと思った俺は、慌ててAの病室を出た。
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作者名:ルイ | 作成日時:2019年5月26日 20時