第3話 ページ6
「…………は」
「まだ、わかんないけど…。さっき目、覚まして、少し話しだだけだから、…わかんないんだけどさ」
「…嘘だろ」
顔を手で覆い大きく息を吐き出して、グシャグシャと髪の毛をかき乱す菊池。
ふと見えた横顔は、明らかに動揺してる姿で。
「どうする？…それでも、今すぐ顔合わせられる？」
「……合わせるよ。俺にとっても大事な女なんだから」
「………そっか」
椅子から立ち上がり、再び病室のドアを開ける。
Aはこちらを見て首を傾けた。
「お兄ちゃん」
「A、ごめんね。お待たせ。…あと、お見舞いに…って」
Aの側に寄って、俺の後ろを歩いていた菊池がひょっこりと顔を出す。
Aは菊池の姿を見て、パチクリと瞬きをした。
「……あ」
小さな声を漏らしたAは、何度か瞬きを繰り返す。
Aの反応を見た菊池はゴクリと喉を鳴らした。
「菊池、…さんですよね？初めまして。兄がいつもお世話になってます」
にこり、と満面の笑みを浮かべたAは、ペコリと菊池に向かって頭を下げた。
菊池は目を泳がせながらも、Aを見てぎこちない笑顔を浮かべた。
「あ……あぁ、うん。こちらこそ…。怪我とか、大丈夫だった？」
「はい。この通り、元気です」
こんなにもAの笑顔が、俺たちの心を抉るとは。
「ねぇ、A。本当に菊池と初めましてだと思う？」
「え？」
「A……、菊池とは…っ」
「やめろ、中島」
「A、思い出せよ…」
「やめろってば！…Aの事、困らせんな……。兄貴だろ」
Aに掴みかかろうとした俺を止めて、俺の両肩を掴んで泣くのを堪えるような顔をしながら菊池が怒鳴る。
ハッと我にかえりAを見れば、Aから笑顔は消えていて、俺の事を怯えた眼で見ていた。
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作者名：ルイ | 作成日時：2019年5月26日 20時
