第16話 ページ30
「A、ちゃん……？」
「…え？」
声のした方を向けば、そこには風磨君がいて、泣いてる私を驚いた表情で見ている。
どうやら私は、ノックの音に気付いていなかったみたい。
「あ、…ごめ……。やだ、…恥ずかしいとこ、見られちゃった…」
指先で涙を拭い、へらっと笑って見せても、風磨君の表情は変わらないでいる。
暫く沈黙が続くと、それを破るように風磨君が此方に歩み寄って、さっきまでお兄ちゃんが座っていた椅子に腰掛けた。
「…大丈夫？どっか、痛いとかだった？」
「ううん。…ちょっと、頭痛かったけど……。大丈夫」
「そっか。あんま無理しちゃダメだよ。………Aちゃんの兄貴、すっげーシスコンの心配性なんだから」
ぽふ、と風磨君の大きな手が私の頭を撫でて、恥ずかしさから顔が熱くなるのがわかる。
「うん……」
風磨君の手が離れるとまた、室内では沈黙が流れて、ちらっと風磨君の顔を見れば、ばっちりと目が合ってしまい慌てて逸らす。
「あの、さ……、俺」
「風磨君、………これ、くれたのって、風磨君？」
同じタイミングで風磨君と話し始めてしまって、風磨君が何を言おうとしていたのか上手く聞き取れなかった。
風磨君は、私の質問を聞き取れたのか、驚いた顔をしている。
「………A」
風磨君の口から漏れた、私の名前にドキリとする。
あぁ。私は確かに風磨君に、あの日から『A』と呼ばれていた。
「風磨、くん……」
「…俺。Aが好きだよ。1人の女性として」
ぎゅ、と風磨君に握られる手がジンジンと温まっていく。
私はその手をしっかりと握り返して、風磨君を見つめる。
「私も…。ずっと、風磨くんの事、好きでした」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルイ | 作成日時：2019年5月26日 20時
