第7話 ページ12
【風磨目線】
仕事を終えて、病院に向かう。
途中、コンビニに寄ってAが好きでよく食べていたデザートを買って、暫く車を走らせれば目的地へと到着した。
まだ人の出入りも多いようで、俺はサングラスをかけてそっと病院の中へ入る。
Aの病室に到着してから、サングラスをとって深呼吸する。
「大丈夫。いつも通り、いつも通り…」
変に緊張している身体を戻すために、両頬をパチンと一度叩く。
そして、ふぅと息を吐き出してから病室のドアを開けた。
Aは身体を起こしてテレビを見ていた。
「こんにちは」
「…え？あっ、……菊池さん。こんにちは」
やはり、先日と同じで、Aが俺を風磨と呼ぶ事はなかった。
わかっていたけれど、やはり胸がズキリと痛む。
「…お兄ちゃんは、…一緒じゃないんですか？」
「え？あぁ、…うん。俺1人でお見舞い、来ちゃった」
やはり、俺1人で来ているのが不思議なのか、Aはキョトンとしている。
俺はAのベッドの側にある椅子に腰掛けて、Aにコンビニの袋を渡す。
「これは？」
「お見舞いの。ごめんね、コンビニスイーツで。今度はもっと良いやつ買ってくるから」
「え、…あ、そんな。ありがとうございます……。あ、これ私の好きな……」
コンビニの袋からスイーツを出したAは、嬉しそうな表情へと変わる。
好きなものもどうやら忘れていないみたいだ。
「好きなんだ。よかった。Aちゃんならこれかなー？って、思って」
「えー？菊池さんそれで私の好きなの当てちゃったんですか？凄い〜」
Aの事をいきなり呼び捨てで呼ぶのもどうかと思って、ちゃん付けしてみるけど、なんだか付き合う前を思い出して擽ったい。
俺のついた嘘に、目をキラキラと輝かせるAに若干の罪悪感を感じながも、可愛い反応をしてるAをつい抱き締めたくなる。
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作者名：ルイ | 作成日時：2019年5月26日 20時
