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霊園を出ると、時刻は正午を過ぎていた。
せっかく遠出したのだから、どこかでランチを食べようと、街を歩く。
着物の女性を見て、ふと真希と真依の母親のことを思い出した。
『産まなきゃよかった』
夫人の口癖だった。
真希と真依の父親、禪院扇は、禪院家現当主の弟で、幹部に名を連ねている。
扇自身は、当主の座を熱望していた。
しかし、当主に選ばれたのは、兄の直毘人のほうだった。
扇は、子どもの出来が原因だと考えているようだった。
確かに、直毘人の息子のひとり、直哉は父親の術式を受け継ぎ、術師としての実力も申し分ない。
既に次代当主となっている。
一方、扇の子は、片方は呪力なし、片方は劣弱な術式持ち。
『人生の汚点』とまで言い放っていた。
でも、私の目から見て、扇が当主に選ばれなかった理由は他にある。
直毘人、扇は共に、育てられたように育った人物。
実力、実績で人を判断する。
だが、2人にも明確な違いがある。
単純に実力だ。
扇は、自分と直毘人は互角だと思っているようだが、最速の術師とまで言われている直毘人は、扇と勝負すれば余裕で勝つだろう。
そして、結果的に見て、直毘人が当主に選ばれたのは正解だったと思う。
直毘人のほうは、割と話が通じるタイプ、と五条悟も言っていたように、思考は偏っていても、ある程度物事を容認する器がある。
扇には、それがない。
人に責任転嫁するのは当たり前で、自己愛や自己憐憫が異常に強い。
同調すれば簡単に乗ってくれるのは有難いが、当主としては足り得ない。
そんな扇の妻は、恐妻として知られている。
長年旧態依然とした男性社会で過ごした控えめな女性。
常に無感動で、娘達に優しい言葉をかけている姿は見たことがない。
それでも私は、あの人が娘を愛していることを知っている。
『産まなきゃよかった』は、産んでよかったと思わせてほしいの裏返し。
御三家では、誰の子であろうと、呪術師としての見込みがなければ落伍者として見下される。
真希に然り。
真依に然り。
堂々と娘を愛せず、蔑むしかない。
夫人の愛情は歪で、母親らしいとは言えないかもしれない。
誰が悪いのか。
そんな問いは、分かりきっている。
カラフルな看板が立てられたスイーツショップの前を通ったとき。
私の目は、ひとりの男を捉えた。
長身に白髪、黒い服。
そして何より異質な、黒い目隠し。
そんな特徴を持った人間を、私は知っている。
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zyunri(プロフ) - こはさん» コメントありがとうございます!更新まで、もう少しだけ待っていてください!頑張ります! (2023年4月20日 20時) (レス) id: 8124b8ac06 (このIDを非表示/違反報告)
こは - 更新楽しみにして待っときます (2023年4月8日 11時) (レス) @page44 id: b559896119 (このIDを非表示/違反報告)
うおまわり(プロフ) - zyunriさん» はい!楽しみに待ってます(*´︶`*) (2023年3月29日 15時) (レス) id: 13372335d3 (このIDを非表示/違反報告)
zyunri(プロフ) - うおまわりさん» コメントありがとうございます!大好き……嬉しすぎて泣いてしまいます……!続編もお楽しみに (2023年3月29日 14時) (レス) id: 8124b8ac06 (このIDを非表示/違反報告)
うおまわり(プロフ) - めっちゃんこ大好き… (2023年3月29日 12時) (レス) id: 13372335d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:zyunri | 作成日時:2022年9月9日 15時