3 ページ48
.
「よし、帰るか。送ってく」
ポケットに車の鍵が入っている事を確認した彼は、また鍵をポケットへ仕舞い込む。
『えっ…、ちょっと、皆に挨拶しなくていいの?』
「いーじゃん、別に。二人で抜け出したら皆、察しが付くだろーし」
彼がにやりと口角を上げる。
男女が"二人同時"に抜け出したら"察し"が付く。
其の意味を理解出来た私は途端に恥じらいの色が顔に溢れ出し、私の表情を眺めていた彼が"ははっ"と目尻に皺を寄せながら悪戯気に笑う。
『もう!からかうのやめっ……きゃっ…、』
彼の腕を軽く叩こうとした瞬間、横向きに抱き上げられた。
其れは所謂、"お姫様抱っこ"で。
突然の出来事で私の脳内は軽くパニックを引き起こす。
『ねぇっ、降ろしてよっ…!』
「無理」
『ちょっと…!』
「駐車場まで距離あるから」
私をお姫様抱きした侭、彼は歩き進める。
彼と私の会話は何処か噛み合っていない気がするけれど、何よりも彼にこうして抱っこされている事によって恥ずかしさが全身に込み上げる。
「その足で歩けんの?見るからに痛そうなんだけど」
彼の目線は履き慣れていないヒールのあるパンプスによって付いた"靴ずれ"に集中していた。
其の靴ずれの範囲は何時の間にか拡がりを見せ、踵付近の皮膚は剥がれ、パンプスには薄らと血が付着している程だった。
彼の言う通り、歩く度に痛みが襲ってくる事は事実だった為、無言になっていると彼が口を開き始める。
「えー、本日は内田エアラインにご搭乗頂きありがとうございます。
当機はシートベルトが搭載されておりませんので、安全の為パイロットの首に両手を回して下さいませ」
困惑する私を余所に、彼はあどけない悪戯っ子のような表情で搭乗アナウンスの台詞を言い替えて話し始める。
「何固まってんだよ。ほら、早く首に手回して」
"ぎゅっ"と彼の首に両手を回す私と、"ふっ"と笑みを零す彼。
今まで男の人にお姫様抱っこをされた事が無い私は、恥ずかしさでいっぱいだった。
こんなにも頬が火照るのは、彼の顔が至近距離にあるからなのか。
こんなにも身体が火照るのは、彼の両腕に抱かれているからなのか。
こんなにも胸が焦がれるのは、彼から溢れる表情が柔らかったからなのか。
是れが魔法なら、ずっと解けなければ良いのにとさえ思った。
.
788人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ami(プロフ) - YULYさん» こんばんは!あちらの作品読まさせていただきました!次の展開が気になって、ドキドキワクワクしてます! (2015年10月9日 19時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - agnellaさん» agnella様、先日は此方と彼方にもご感想を下さって有難うございました♪agnella様から2つもご感想を頂いてとっても幸せです(照)パイロット内田さん、そして一途な内田さんをお好きになって頂いて大変嬉しいです♪新章でも宜しくお願い致しますね♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - amiさん» ami様、こんばんは♪先日も御丁寧にコメントを有難うございました(*´-`*)今夜は約1週間振りにあちらの作品を更新させて頂くので是非ご覧頂けたら幸いです。それでは、また♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
agnella(プロフ) - パイロット内田、かっこいいです!!!!!!!一途な内田さん、嫌いじゃないです(*^_^*) 続きが気になります。これからも頑張ってください。 (2015年10月5日 1時) (レス) id: 9be3da9e01 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - YULYさん» おはようございます!はい!読まさせていただいてます!こちらの作品の更新も楽しみにしてます!岳さん頑張って欲しいです! (2015年10月2日 8時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:YULY | 作成日時:2015年7月22日 6時