RIDE ON TIME 1st

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ゆっくり瞬きをして、先程迄のあらゆる感情を払拭するかのようにグラスに入ったワインを飲み干す。


お酒が苦手で普段は一切口にしないのに。


緋色をした其れは何故だか、ほろ苦かった。






「豪快な飲みっぷりだね〜、Aチャン」



私の目の前に座り、頬杖を付きながら此方を"ガン見"しているのは伊藤さんだった。


一気飲みをした姿を見られている事に気付きもしなかった私は、途端に恥ずかしくなる。


"Aチャン"と自然に呼んでしまう伊藤さんはやはり女慣れしているようで、どう接していいのか分からず困惑してしまう。






助け舟を求めるかのように一瞬だけ、一番端に座る彼に視線を向けるけど。


目線を落として料理をつまむ彼が、私の視線に気付く事などきっと、無いだろう。



彼を見詰めた所で、
一体何をしたかったのだろう。

何をして欲しかったのだろう。



抑、彼に何かをし、何かをして貰う程、深い仲でも恋人でもないのに。







「Aチャンって仕事何してんの？」


『航空整備士です』


「へぇ〜！可愛いのに整備士とか、そのギャップやばい！」



伊藤さんはアリサと穂菜美には目もくれず、私だけに色んな質問を投げ掛けてくる。


彼女達なら伊藤さんを交わす術を持ち合わせているだろうけど、こういった男女の場に全く慣れていない私にはどんなに困難な試験よりも難しくて。






「彼氏はいるの？」


『いませんよ』



伊藤さんは空になった私のグラスにワインを勝手に注ぎ足し、其れを勧めてくる。


苦手な会話を続けるよりも酒に飲まれた方がマシだと判断した私は、お酒が苦手な筈なのにペースを上げていく。






「マジ？！じゃあ俺、Aチャンの彼氏に立候補しよっかな」



野望を秘めたように強気な笑みを浮かばせる伊藤さんに困惑していた刹那、






「A、口にソース付いてる」



"ここ"と指で自分の口を指し示して、私を見詰めながら彼が呟いた。






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