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「岳ちゃん初来店記念に大サービスしちゃうぞー!」と気前の良い笑顔で持って来てくれた具材を、彼女は手際良く鉄板へと乗せる。
「Aさん、本気で合コン行くんですか?」
行かないで欲しい、行かなくてもいい。
声にならない本心が顔に出ていない事を祈りながら彼女へ問い掛ける。
『うん。瑞月からの頼み事だしね』
周りの人を放って置かずに手を差し伸べてくれる。彼女はいつだってこういう人だ。
『それにね、レストランのご飯がめちゃくちゃ美味しいみたいだから行って損はないかなーって』
高級レストランの料理よりも、彼女が作る手料理の方が遥かに美味いのに。
そう感じるのは彼女に盲目過ぎる所為なのだろうか。
「初めて逢う男達と食事とか危険ですよ」
『大丈夫大丈夫。合コンで私の事を見てくれる男なんていないから』
箆を駆使してお好み焼きをひっくり返しながら無防備な笑みを浮かばせる彼女に溜め息が零れる。
呆れたからなのか、其れとも何時もらしい彼女だったからなのか。
「さっき、俺言いましたよね」
『何を?』
「"俺の目が届く場所に居て"って」
頭を傾げながら俺を見詰める彼女に少しばかりの本心と忠告を向ける。
「…じゃなきゃ直ぐにAさんを守ったり助けてあげられないでしょ」
今直ぐにでも彼女と付き合いたいなんて思っていない。
ただただ彼女の傍に居て、篤人くんよりも近い存在で居たい。
然して彼女の事を少しでも多く知りたいだけで、全てを独占したい気持ちは微塵も無いんだ。
「意外とすぐ傍にいますよ」
『誰が?』
「Aさんを見てくれてる人」
奥手で無口な俺にしては何故か今夜だけは見違える程に饒舌で。
気付かぬ内に俺の片手は彼女の頬に触れていた。
俺が撫でた彼女の頬は、あの日篤人くんが触れた側の頬じゃない事に気付く。
其れはきっと、篤人くんが遺した記憶に重ねるよりも、俺の真新しい記憶を彼女の身体に刻みたかったから。
何時から俺はこんなにも自分勝手になったのだろう。
そんな想いは、薄らと笑窪を浮かばせながら頬を染める彼女の表情によっていとも簡単に掻き消されていった。
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ami(プロフ) - YULYさん» こんばんは!あちらの作品読まさせていただきました!次の展開が気になって、ドキドキワクワクしてます! (2015年10月9日 19時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - agnellaさん» agnella様、先日は此方と彼方にもご感想を下さって有難うございました♪agnella様から2つもご感想を頂いてとっても幸せです(照)パイロット内田さん、そして一途な内田さんをお好きになって頂いて大変嬉しいです♪新章でも宜しくお願い致しますね♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - amiさん» ami様、こんばんは♪先日も御丁寧にコメントを有難うございました(*´-`*)今夜は約1週間振りにあちらの作品を更新させて頂くので是非ご覧頂けたら幸いです。それでは、また♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
agnella(プロフ) - パイロット内田、かっこいいです!!!!!!!一途な内田さん、嫌いじゃないです(*^_^*) 続きが気になります。これからも頑張ってください。 (2015年10月5日 1時) (レス) id: 9be3da9e01 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - YULYさん» おはようございます!はい!読まさせていただいてます!こちらの作品の更新も楽しみにしてます!岳さん頑張って欲しいです! (2015年10月2日 8時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:YULY | 作成日時:2015年7月22日 6時