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作り過ぎたお弁当を彼に差し出す。
「毒でも入ってんじゃねーの?」
「Aさんが作る料理めちゃくちゃ美味いですよ」
私をからかうように口角を上げてニヤつく彼に岳が穏やかな口調で呟く。
岳の言葉を訊いた彼の表情が一瞬、歪んだような気がしたけれど、其れはきっと私の気の所為だ。
「もしかして岳、こいつの手料理の毒にでもやられた?」
「違いますって」
はははっと優しく笑みを零す岳とは正反対に、からかい続ける彼の手からお弁当を奪い取る。
『…だったら食べなくていい』
「嘘だって。そうカリカリすんなし」
ご機嫌を取るかのように彼は目尻に皺を寄せながら私の頭を優しく撫でる。
「…うま」と受け取ったお弁当に箸を付けた彼が小さく呟く。
「つーか何で茶碗蒸し?」
『岳ちゃんの大好物だから作ったの』
別の箱に入っていた茶碗蒸しを口に運んだ彼が「…ふーん」と相槌を打つ。
「お前って意外と料理上手なんだな」
『…意外って何よ』
憎まれ口を叩きながらも箸の進み具合が止まらない彼は余りにも空腹だったのか、其れとも私の手料理が彼の口に合ったのか。
其れは彼にしか知り得ない事だけど、後者であって欲しいと、ふとそう願った。
彼と私のお弁当の中身が若干異なる事に気付いた彼が二つを見比べながら「その厚焼き玉子ちょーだい」と呟く。
『うん、いいよ』
「は?違ぇーし」
お弁当ごと差し出した私に不機嫌な表情を浮かべる彼に戸惑いを覚える。
「"ちょーだい"って言ったらこうするんだよ」
『…ちょっと…!』
箸で厚焼き玉子を摘み、其れを私の手に持たせた彼は"食べさせろ"と言わんばかりに"あーん"と口を開く。
「ほら、早く」と急かす彼に恥ずかしさが込み上げるけれど、必死に羞恥心を抑えながら彼の口に箸を近付ける。
私の気持ちなど知る由も無く厚焼き玉子をぱくっと口にして「うまー」と笑みを零しながら食す彼は罪な人間にさえ思えて。
二十歳を超えた三人がこうして並んでご飯を食べる光景が気にならない程、彼によって齎される行動の所為で私の感情が掻き乱されていくばかりだった。
どうしていいのか分からなくなる程に。
夕焼けのグラデーションを格納庫から眺めながら、今日は残業が無い事に喜びを噛み締める。
帰宅準備をする為に事務所へ行くと、広々としたソファに寝そべる人影が視界に映った。
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ami(プロフ) - YULYさん» こんばんは!あちらの作品読まさせていただきました!次の展開が気になって、ドキドキワクワクしてます! (2015年10月9日 19時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - agnellaさん» agnella様、先日は此方と彼方にもご感想を下さって有難うございました♪agnella様から2つもご感想を頂いてとっても幸せです(照)パイロット内田さん、そして一途な内田さんをお好きになって頂いて大変嬉しいです♪新章でも宜しくお願い致しますね♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
YULY(プロフ) - amiさん» ami様、こんばんは♪先日も御丁寧にコメントを有難うございました(*´-`*)今夜は約1週間振りにあちらの作品を更新させて頂くので是非ご覧頂けたら幸いです。それでは、また♪ (2015年10月9日 17時) (レス) id: 25f226d759 (このIDを非表示/違反報告)
agnella(プロフ) - パイロット内田、かっこいいです!!!!!!!一途な内田さん、嫌いじゃないです(*^_^*) 続きが気になります。これからも頑張ってください。 (2015年10月5日 1時) (レス) id: 9be3da9e01 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - YULYさん» おはようございます!はい!読まさせていただいてます!こちらの作品の更新も楽しみにしてます!岳さん頑張って欲しいです! (2015年10月2日 8時) (レス) id: 420a20c751 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:YULY | 作成日時:2015年7月22日 6時