許嫁 （上）【煉獄杏寿郎】【冨岡義勇】

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鮭は旬ではない為、多少値が張りそうだったが
父に事情を言うと、多めにお金を渡してくれた。


市場で探すのに苦労し、二時間かかって屋敷に帰る。

涼しい暗所に水を張って鮭を冷やしておいた。



「お帰りなさい。留守の間に杏寿郎様が
いらっしゃたわよ。鬼の件もあるし、
紫の体調心配なさってたわ。お土産まで・・」


母はつるりとした美味しそうな芋羊羹を見せる。
包みには 浅草 老舗 という文字。



(浅草か・・・)



遊郭で見た杏寿郎様の姿がまた目の奥にちらつく。

あの時は理不尽にもむっとしてしまったけど、
冷静に考えたら任務だったに決まっている。


その帰りにお土産を・・・

昨日屋敷に行って迷惑をかけてしまったばかりなので
気を遣ってくれたのだろうか。



「寝ていないようだったから、
きっと浅草の辺りで任務の帰りだったのね」



(姉さんが言った通り浅草にも鬼が出ているんだわ)


「それなら今は屋敷でお休み中よね。
今度お礼言いに行く。」



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家の手伝いを済ませ、夕餉の準備前に
頂いた芋羊羹とお茶で一息いれていた。


「水柱様も起きていたらお出しして」と母に言われ、

彼の部屋の外から控えめに声を掛けた。




「水柱様。お休み中でしょうか」



返事がないので去ろうとすると、
ほんの少し襖が開き、鴉の嘴がひょこんと出てきた。



「・・・昨日ノオ嬢サン。菓子ハ・・」

眠ぼけているような声で鎹烏が呟く。



ちらりと開いた襖の隙間から、水柱様の姿が見えた。


こちらに背を向けて立っている。

結わかれていない髪が背中に流れていて、
寝巻から着替えるところのようだった。


浴衣一枚に窓から差し込む陽の光が

その薄い生地の下の身体を浮かび上がらせる。



肩、背中、腕、ふくらはぎ―

どこも若さに満ち溢れ、鍛え上げられている。

見惚れるような瞳と澄んだ声の美男子かと思えば、
何年も鍛錬を重ね、鬼を狩ってきた男の威厳ある姿。



そのまま帯を緩めようとされるので思わず

「ごめんなさいね、お菓子はあげられないわ」

と敢えて声を張り、


指で鴉を部屋の中に戻してそっと襖を閉める。



「ちょうど今から鍛錬を始めるようだったから」

と母には伝えた。



また熱が上がったように火照る自分の身体を
先程から鮭を冷やしていた水に腕を突っ込み冷やす。

急いで夕餉の支度にとりかかった。


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