27* 私じゃない ページ27
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どうにかリビングのソファーまで運べた。
鉢屋はソファーにぐったりとした様子で座っている。
これはかなり弱ってるな。
「大丈夫…じゃないよね見る限りは。病院行った?」
「…思いの外…体調が…よくなかった…らしい…病院は行った…」
鉢屋が目で示した場所には薬がある。
薬があるならひとまず安心。
だが、息も絶え絶え、喋るのも辛そうだ。
「なんで…Aが…?」
「あ、不破くんに頼まれて、届け物。ごめんね、いつものメンバーたちじゃなくて」
「…」
返事はない。
んー、やっぱ私じゃ不服だったか。
胸の奥がチクリと痛む。
こういう痛みにもだいぶ慣れてきた。
が、その度に自覚してしまうのが苦しい。
迷惑にならないように、さっさと帰ってしまおう。
階段から落ちたということは、恐らく2階で寝ていたのだろう。
「部屋って2階?」
隣で、静かに首を縦に振る。
「じゃあ肩貸すから、上まで頑張ろっか」
正直私もきついが、運動不足解消だと思って。
ふらふらしながらも、2階に着いた。
ドアを開けると、ほとんど物のない、モノクロで統一されたシックな部屋。
部屋一面、鉢屋の匂い。
仮にも好きな人の部屋なのだから、鼓動が速くならざるを得ない。
いや、ごめん、不謹慎だね。
部屋の奥にある、ベッドに横たわらせる。
任務完了だ。
「あ、ポカリとゼリー買ってきたから、食べれそうなら食べてね。あと薬もちゃんと飲んで。配布物たちはテーブルの上ね」
上記のそれらを頭元に置き、ベッドの隅に追いやられた、掛け布団を鉢屋にかける。
横たわった鉢屋の顔をのぞき込む。
疲れきっているようで、もはや寝てしまっている。
無防備なその姿は、いつもの鉢屋からは見受けられない。
…どうしようもなく愛おしい。
私はベッドのそばに座り、布団からわずかに出ている鉢屋の手に、指先で触れる。
ねぇ鉢屋。私ね、好きなんだ、鉢屋が。
…なーんて、ね。絶対言わないよ。
……言えないよ。
自分の想いに蓋をする。
「…じゃあ私はこれで。急に来てごめんね。お大事に」
聞こえてないだろうな。
ゆっくりと立ち上がり、踵を返す。
すると、手首をガッと掴まれた。
「…鉢屋?」
「…行くな……姉…」
私じゃない子の名前を呼ぶ。
もしかしなくとも、彼の好きな子の名前を。
「勘弁してよ…」
視界がじんわりと曇る。
手首は、強く握られていた。
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あ - はーもう何回読んでもキュンキュンです更新待ってます! (2021年9月12日 18時) (レス) id: 5d4ddc9a48 (このIDを非表示/違反報告)
moufu0727(プロフ) - すっっっごく素敵です!!更新されるのを楽しみにしています(^ ^) (2021年5月5日 13時) (レス) id: be7d571388 (このIDを非表示/違反報告)
はすいろ(プロフ) - 題名忘れて二年間ぐらいずっと探してました!更新待ってます! (2020年5月16日 3時) (レス) id: 0c8b5c5d9d (このIDを非表示/違反報告)
夢少女リノ - 続きを踊りながら待機 (2017年12月12日 5時) (レス) id: 228e8ecf3d (このIDを非表示/違反報告)
Aoha - なんか私高屋さんみたいな親友ほしい。出来れば鉢屋みたいな彼氏がほしい。続きが楽しみです!更新頑張ってください! (2017年12月12日 1時) (レス) id: 99600ecbc7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RITZ(リッツ) | 作成日時:2017年8月18日 2時