愛囁 08 ページ8
*
医務室から出てきたローとチョッパーにクルーたちが詰めかける。Aは無事か、死んでないだろうな。
不穏な言葉も飛び交うが、ローの"命に別状はない"という言葉に皆は安心したように息を吐いた。
おれも自分の血だらけのシャツと掌を見て、はぁ、と一つ息を吐く。よかった...よかった、とそれだけが頭のなかを支配した。
よかった...本当に無事で良かった。
君はおれの顔なんて見たくなかったかもしれないけど...あの時、おれが君を見つけられて良かった。
「ロー、Aちゃんの傷の具合はどうなんだ？」
「命に別状はないと言っても腹を刺されてる。当分は安静だろうな。まぁ、ドレスローザに着く頃には治ってるだろう」
アイツは貴重な戦力だからあれくらいの浅傷でよかったぜ、とローの酷な言葉に苦笑いする。
何だっていい、彼女が無事ならそれでいい。
おれはローとチョッパーの後ろにある医務室の部屋に入りたかったが、おれにもやるべきことは沢山ある。おれはこの船のコック。
クルーの腹を満たして、怪我人を早く治すために食事を作らなければならない。
「お前ら、医務室の前に居てもAちゃんの回復の邪魔だ！早く散れ散れ！」
「ちぇ〜〜っ、おーーい！！A！早く怪我治せよ〜〜！」
ルフィの言葉を皮切りに、皆はそれぞれの場所へと戻っていく。
おれも着替えてから飛びっきりの料理で彼女を元気付けようと、怪我人に良い食事を考えながらキッチンへ向かおうとした。
「黒足屋」
「...ロー、何か用か？」
ローは何か言いたげに此方を見ていたが、すぐにいや、と目を伏せてどこかへ消えていく。
はぐらかされた内容が気になって追いかけようかと考えたけれど、飯を作らなきゃならないし後で聞けばいいか、とシャツを脱ぐ。
食事の時はAちゃん以外がダイニングへ集った。その時もローは何か言いたそうにこっちを見てきた。
だが、その真意は分からなくておれはAちゃん用の食事を盆に乗せて部屋を出る。
一体、ローは何を言いたいんだ...？
もしかして、Aちゃん関連のことか...？
考えても考えても、ローが考えていることなんかおれに分かりはしない。所詮野郎の考えていることなんか分かりゃしねェ。
レディの気持ちは"一人"を除いては理解しているというのに。
おれの医務室へ向かう足取りはどこか覚束なくて。
あぁ、二人っきりなのに緊張してるんだ...と柄にもなく恥ずかしくなって自分の顔が赤くなるのが分かった。
意外と本命にはウブなんだな、おれも＿＿＿
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作者名：RIOT(別垢にいみ)
| 作成日時：2019年12月9日 0時
