常夏《赤》 (ページ37)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:111,791 hit

#37 ページ37

.

『すみません、でした』

重苦しい空気。
耐えられなくなって思わず謝ってしまう。

私、悪くないんだけどな。
きっと悪く扱われるんだろうな。

考えただけで、気分が沈む。

「あの、さ。黒瀬ちゃんも顔上げて。ね？
たまたま被っちゃったってだけだと思うしさ」

『…はい』

私のデザインを間近で見た人なんて、美代先輩一人。

それなのに、当の本人は理解ある人のフリ。

信じた自分を嘲笑われてるみたいで嫌だ。

部長と美代先輩との三人が入るには十分な大きさ。
そんな広い部屋が、重い空気で侵食されていく。

呼び出されたときの凍りついたような空気が今もまだ残っているよう。

「…とりあえず、こっちで処理しとくから。
今後こういうことはないようにな」

「はい」

『…すみませんでした』

溜めた涙が、今にもこぼれそう。

部屋を出ていく直前、先輩が、ニヤリと口角をあげたのが横目に入る。

信じなければ、よかったのかもしれない。

「…黒瀬」

『すみません。当たり前のことなのに。
…ははっ、何やってんでしょうね、私』

失礼します。

言いかけたその言葉は、音として出てくることなく、喉に詰まる。

この場の切り抜け方なんて、場数を踏んでない私に、分かるわけがない。

「…無理して笑うなや」

耳元で聞こえる苦しそうな声に、反応できない。

ぎゅっと抱きしめられて。

でもこの手を振りほどいてしまったら、部長が壊れる気がして。

「黒瀬はそんなんする奴ちゃう。
そんくらい、俺やって分かってんねんっ、」

ああ、ずっと、そう言ってほしかったのかな。

涙、止まんないや。